歌の力を思い出した、七尾旅人の新作

「人間の複雑さから逃げない表現が好き」(七尾旅人)
──震災や被災地のことを直接歌った曲よりも、むしろそれ以外のところから生まれてきた曲の方が実は比率的に多いですもんね。
「具体的な曲で挙げるならば、例えば『サーカスナイト』は、今の世の中に対する風刺なども入っていますけど、基本的にラブソングですね。『湘南が遠くなっていく』とかは完全にポップスですけど自分にとってはすごく思い入れのある曲で。それを『圏内の歌』みたいな曲と同居させるのに迷いはありましたけど、させるべきだと思ったんです。絶対にチャリティ・アルバムみたいな作品は作ってはいけないと思っていたし、清廉潔白なものではなく自分の人間としての汚さや小ささも正直に出して、シンガーソングライターとして自己表現したものを、東北の友だちにも聴いてもらいたいと思ったんですよね。義援金サイトとかはある種の公共性のなかで稼動させるべきものだけど、アルバムというのはやはり生まれてくる瞬間はどうしたって私物だろうから、自分をキレイに見せかけたりしてはいけないと思ったんです」
──どちらも同居していて、どちらも研ぎ澄まされた楽曲になっているからこそリアルで、震災のことを直接的に歌っていない楽曲にも震災以降のメンタリティが行き届いているのが素晴らしいなと思いました。
「これだけ大きいことがあって、これだけの悲しみが蔓延した後では、だいぶ覚悟を決めて命を差し出すくらいじゃないと、聴く方には納得してもらえないですよ。この作品だけで何かが終わるわけでもなくて、これからも人生を賭けて1枚1枚作っていく中でまた答えを導き出していくというか。一生かけて考えていく課題を突き付けられたなかで、もう一度再起動していく最初の1枚目みたいなところもありますね」
──震災以降の集大成ではなく、むしろこのアルバムが新しい始まりだと。
「やっぱり音楽って面白いっすよ。すごい複雑なことがそのままパッケージされるでしょ? それが音楽の豊かさだと思うんです。単にキレイでもなければ汚いでもなく、割り切れないモノがいっぱい入っていて、科学や政治、ジャーナリズムの言葉とも違う。音楽や芸術の言葉って複雑ですけど、それってすごく意味のあることだと思うんですよ」

──音楽だからこそ描ける感情やシチュエーションって、確実にありますもんね。
「例えば、さっき『湘南が遠くなっていく』はただのポップスだみたいな言い方をしましたけど、実はそうでもなくて、津波の後にすごく足繁く関東の海に行っていたんですよ。自分は高知生まれなんですが、海というものと自分の関係が変わっちゃった気がして。それがイヤだったのかもしれないけど、スマートに言葉で説明できない部分なんですよね。生きているとそういった上手に言葉だけで説明できないことがたくさんあるし、人生の襞(ひだ)みたいなものを襞のまま表現できるのが音楽かなと。震災の後はイヤなものもたくさん見たけど、美しく真摯な人たちもいっぱい見たので。そこの記憶も入れたかったし、人間の複雑さから逃げない表現が好きなんです」
──そして、ワンマン・ツアーで11月4日に「KYOTO MUSE」、12月24日に「梅田クラブクアトロ」が決定しています。
「やっぱり自分はライブが好きで、ライブで観てもらってなんぼみたいなところがあるので、ぜひ生で観てもらいたいですね。大阪はU-zhaan(ユザーン/タブラ奏者)にも声をかけてあるので、ユザーン・サンタとクリスマス・スペシャルでやろうかなと思っています。小学生以下は無料なので家族できてもらってもきっと楽しいですし、ライブ中に赤ちゃんが泣いてもオレは赤ん坊と一緒に即興で曲作ったりするような感じなので、子育て中のお母さんたちも気を使わず、気楽に来て欲しいです」
七尾旅人(ななお・たびと)
1979年生まれ、高知県出身のシンガー・ソングライター。1998年にシングル「オモヒデ オーヴァ ドライヴ」でデビュー。翌年には1stアルバム『雨に撃たえば...!disc2』を発表、独創的なサウンドプロダクションと世界観から“アンファンテリブル(恐るべき子供たちの意/コクトーの小説より)”と賞賛される。以降、精力的に活動を続け、2011年3月には、開発に携わって来た自力音源配信ウェブサービス「DIY STARS」より『DIY HEARTS 東北関東大震災義援金募集プロジェクト』(http://www.diystars.net/hearts/)を開始。
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