岩井俊二監督「人は分かり合えない、だから分かり合いたい」

2016.4.7 21:00
(写真1枚)

岩井俊二監督の最新作『リップヴァンウィンクルの花嫁』が絶賛公開中だ。原作、脚本も監督自身が手掛けており、主人公・七海を演じるのは『ベルリン国際映画祭』で銀熊賞(最優秀女優賞)に輝き、今もっとも注目を集める黒木華。

他者との距離を保ち、「人並み」であるように生きていた七海が、何でも屋にアルバイトを斡旋されていくうちに、Cocco演じる破天荒な真白と出会うことで、内に秘められた自分自身に気づいていく・・・儚くも美しい、この物語について、岩井監督に話を訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤 写真/木村正史

「考え方が違う人をみんな認めなくなってきた」(岩井監督)

──つい先ほど行われた舞台挨拶で出てきたタイトル誕生秘話、ちょっと笑ってしまいました。あれこれ構想しながら目黒川沿いを散歩していたときに聴いていたのがバンド・クラムボン(註:本作で七海が名乗るハンドルネーム)で、ちょうど散歩の折り返し地点にあったブティックの名が「リップヴァンウィンクル」(註:真白が名乗るハンドルネーム)だったというお話。

散歩しながらというと気楽そうだけど、実は途方もないところから砂漠に降り立って、(映画作りの)サヴァイバルのちょうどスターティングなので。散歩しながら、まだ何もない状態でずーっとお話を夢想して、少しずつ固めていった時期というのは意外と思い出深いものなんです。ま、どの映画もそうなんですけど、その時期って一番自分と向き合わなければいけない。非常に重要な時間なんだなと改めて感じますね。

「非常に殺伐とした、無慈悲で不寛容で陰険な世界が現実」と語る岩井俊二監督
「非常に殺伐とした、無慈悲で不寛容で陰険な世界が現実」と語る岩井俊二監督

──今回の映画に直接的に3.11は出てきませんが、漠然とした虚脱感や目的意識の喪失感が漂っていて、間違いなくあの日以後の世界を描いた映画、という感じがします。

今回の原型となる話というか、もうちょっとストレートな、震災そのものをテーマにしたものを作れないかなと思って、いろんなエピソードを考えてた時期が結構あったんです。そのなかの2つくらいの話を合体させたようなのが今回のお話で、最初の段階では、もうちょっと小さな話だったはずなんですけど、だんだん膨らんでいきましたね。通算でいうと2年ぐらい? そのなかで消えた話もいずれ何らかの形で出てくるかもしれないですけど。

──仙台出身の監督は、ドキュメンタリーとして『friends after 3.11』を撮られたり、復興支援ソングとして今や誰知らぬ者もない『花は咲く』の作詞(作曲・編曲は菅野よう子)も手掛けてられるわけですけど、3.11前の数年間は海外での活動が多かったですね。『ニューヨーク、アイラブユー』(2008年)や『ヴァンパイア』(2011年)や。

ん〜まぁ、3.11以前というのは、正直ちょっとやりづらい時期で。日本はなんか時間が止まってしまったような、新しい画期的なことが生まれてこない感じがあって。なにをやっても同じみたいな空気があって、あんまり日本にいない方がいいかなって思ってた時期でしたね。「KY」なんて言葉が流行って、「空気を読んでない人」・・・意見が違う、考え方が違う人をみんな認めなくなってきた。

──たしかに、そうですよね。

考え方どころか、空気の読み方を間違えたらもう仲間じゃないっていう「薄さ」。もちろんそこから外れてる人もいるんだけど、これが主軸になっている間はちょっと何も作れないな、っていう。とにかく僕が作ってるのって「外」の話なので、何かやっても甲斐が無い感じがすごくして、それで新天地を求めてアメリカや中国に行ったりしたんですけど。

──そんな空気はいまだに続いているところがあると思うのですが、また日本で物語映画を始めるきっかけとして、やはり3.11以降の世情の変化はありますか?

もう人と人は分かり合えないんだということがはっきりしましたね。「KY」も幻想であって、やっぱり人はみんな違うし、意見も違う。利害損得も違うなかでいろんなものがぶつかり合うんだということですね。

3.11以降、最初は「絆」っていう言葉でまとまってたはずの日本が、なんかその後ぐちゃぐちゃになっていき、祝福されないオリンピックだとかだいぶ痛々しいことになっている。誰かひとりがネット上で火だるまにされたり、非常に殺伐とした、無慈悲で不寛容で陰険な世界が現実だと思うんですよ。

映画『リップヴァンウィンクルの花嫁』

2016年3月26日(土)公開
監督:岩井俊二
出演:黒木華、綾野剛、Cocco、ほか
配給:東映 3時間00分

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