辰吉と阪本監督だけの20年の距離感

2016.2.20 08:00
(写真2枚)

「浪速のジョー」ことプロボクサー・辰吉丈一郎を20年間追い続けたドキュメンタリー映画『ジョーのあした-辰吉丈一郎の20年-』が2月20日より、関西で先行上映される。監督は、『どついたるねん』の阪本順治。その公開に先立ち、2人揃ってのインタビューが実現。辰吉、阪本監督に話を訊いた。

取材・文・写真/hime

「需要があるんか、めっちゃ疑問。でも・・・斬新やな」(辰吉)

「僕らは、決して仲良しなわけではないよ。一定の距離があるから一緒に居られる」と言う阪本順治監督と、プロボクサー辰吉丈一郎が座る2人掛けのソファには、間に子ども一人が座れそうなくらいの隙間がある。「ほら見て、この距離(笑)。でも、これが僕たちにとって必要な距離なんだ」と、阪本監督はどこかうれしそうだ。

元WBC世界バンタム級王者、「浪速のジョー」こと辰吉丈一郎を、25歳から20年間追い続けたドキュメンタリー映画『ジョーのあした-辰吉丈一郎との20年-』。メガホンをとった阪本監督は、辰吉のプロデビューと同じ1989年に、ボクシング映画『どついたるねん』でデビュー。以来27年にわたり「辰ちゃん」「阪ピー」と呼び合う仲でありながら、2人にしか分からないちょうどいい距離があるようだ。

「20年ていうとみんな、すごい!って言うけど、そうじゃないんだ。こっちからすると、いつの間にか経ってた20年。撮影そのものは、1回1回だし、ベッタリ密着したわけじゃない。そろそろちょっと喋ろうか・・・って、そんな感じ」(阪本)。そうやって出来上がった映画は、これまでにテレビなどで数多く製作された『辰吉・密着ドキュメント』とは、ずいぶん趣きの異なる仕上がりとなっている。

撮影が始まったのは、辰吉が網膜剥離の診断から国内での試合を制限され、海外に闘いの場を求めていた時期だった。劇画の中にドキュメンタリーを差し込んだ映画『BOXER/JOE』(1995年公開)で、辰吉の国内復帰試合をカメラに収めたのをきっかけに、「もっと辰吉丈一郎を目に焼き付けたい」「引退までを見届けたい」と時折、大阪・守口の自宅を訪れては、彼の言葉を記録し続けたという。

辰吉は「この映画、僕の顔しか映ってないやろ。見たい人おるん? 需要があるんか、めっちゃ疑問やわ・・・」と言う。しかし、「まあ、でも・・・誰もやらない事をやったから、斬新やな」とねぎらう一言に、阪本がニヒルに答える。「いや、暴挙かもね。スポーツ選手のドキュメンタリーでありながら、もっとも本業であるリング上で闘う姿がほとんどないなんてさ(笑)」。

辰吉の顔を同じアングルでクローズアップし続け、肌の張り・白髪・・・20年に渡る外見の変化もつぶさに映し出すドキュメンタリー。フィルム特有の奥行きの深さからか、スクリーンで観ていると、ふいに辰吉の黒目がちの瞳に吸い込まれそうになる。俗にいう「カメラが惚れている」というやつだ。「僕(監督)、撮影、音声の3人は、前の映画(『BOXER/JOE』)を一緒にやって、辰吉くんが大好きになった。もっと見たい! 焼き付けたい! その衝動が原動力だから、20年経っても誰1人抜けなかった」(阪本)。

© 日本映画投資合同会社
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映画『ジョーのあした-辰吉丈一郎の20年-』

2016年2月20日(土)公開
監督:阪本順治
出演:辰吉丈一郎、ほか
配給:マジックアワー

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