江口のりこ、声優初挑戦で芽生えた「信じる気持ち」…芝居への真摯な思い

声優に初挑戦する、江口のりこ(Lmaga.jp撮影)
主演ドラマ『ソロ活女子のススメ』、朝ドラ『あんぱん』など、舞台で培った確かな演技力でドラマをどっしりと支える貴重な俳優・江口のりこが、ディズニーのアニメーション映画の続編『ズートピア2』(12月5日公開)で、意外にも声優初挑戦を果たす。
動物たちが人間のように暮らす世界・ズートピアで、大きな陰謀に立ち向かうウサギのジュディとキツネのニックの活躍を描いた同作。江口が演じるのは、陰謀論を配信するビーバー・ニブルズ。作中では超絶明るいノリで、人気者となることは間違いないキャラクターだ。手探りだったというアフレコ、そして江口は今回の声優初挑戦で、思いの変化などがあったようだ。
■ ディズニーからのオーディションオファーに「本当に不思議で」

──江口さんが演じられるニブルズは、ズートピアの深い知識とビーバーならではの特性を生かして、ウサギのジュディとキツネのニックをサポートするという、今回もっとも重要なキャラクターのひとつ。オファーがあったときは、率直にどう思われましたか?
まずディズニーさんから「オーディションを受けませんか」というお話があったんですけど、その時点では「どうしてディズニーさんが、私のところに用事があるのかな?」と、本当に不思議でした。声優という仕事もやったことがなかったですしね。だからニブルズに決まったと聞いたときは、本当に嬉しくもありビックリもしました。

──初の声優の仕事に向けて、なにか準備したことはありましたか?
そのときちょうど舞台をやっていたので、「風邪をひかないようにしよう」と、それだけです。本当に初めての経験なので、なにを準備していいのかもわからなかったので。あとはUS版(字幕版)のニブルズはフォーチュン(・フィームスター)さんというコメディアンの方がやっていて、それが本当に素敵な声だったので、真似ができるいいところは、しっかりと真似しようと思いました。
──声優は今回が初挑戦。振り返ってみていかがでしたか。
めっちゃくちゃ楽しかったです。声優に関してはただの素人なので、頼みの綱は(日本語吹替版の)監督だけだったんですけど、丁寧にわかるように指示を出してくださいました。「アニメーションってこんな風にして作られていくんだ」という現場を見られたのもおもしろかったし、勉強になりましたね。
──逆に「これがしんどかった」ということは?
それでいうと、すべてがそうでしたね。(レコーディングの)部屋に一人きりで閉じこもって、自分の視界に入るものはモニターしかないという状態で、何時間も(演技を)やるのって、肉体的にも精神的にもなかなかハードなんですよ。「声優さんってすごいなあ」って、本当に思いました。

──個人的には、ニブルズは口調に独特のリズムがあるので、あのリズムを日本語で上手く表現されたのも、すごいなと思いました。
リズムができていたというのは、もともとのアニメーションが素晴らしかったからじゃないですかね? でもそうやって声を出すことだけに一生懸命になっていたら、監督から「今この人は、こういう気持ちでこう話していると思いますよ」と言われて「あ、芝居をするということを忘れていた」と気付かされるんです。

──俳優も声優も、そこは一緒だと。
いつもの仕事との共通点というか、いつもの仕事が役に立つというのを見つけられたときに、少しだけ楽になれましたね。いろんなやり方を試行錯誤しながらやっていって、いつの間にか終わったという感じでしたけど、めっちゃくちゃ楽しかった。監督さんが私にとっては最初から信頼ができる、すごくいい監督だったから本当に良かったです。
■ 変わらぬ芝居への思い「自分を優先という気持ちで」

──江口さんの出演は、アメリカのワールドプレミアで発表するという、異例の形でアナウンスされました。あの場所に参加してみていかがでしたか?
一番感動したのは『ズートピア』続編を待ち望んだお客さんがたくさんいて、みんながすごく楽しそうだったこと。舞台に役者が出てきて挨拶するだけで、こんなに盛り上がるんだ! って、すごく驚きました。それまで私は「お客さんは敵だ」という意識が大きかったんですけど、その姿を見たときに、もうちょっと信じてもいいんじゃないかという気持ちになりましたね。
──お客さんが敵、とは?
お客さんの言うことを100%信じたり、「こんなことを望んでいるのかな」と意識したら、私のやるべきことから逸れてしまうのでは…と昔から思ってるんです。たとえば連続ドラマをやっていると、台本が途中で急激に変わることがあります。それは恐らく制作者がSNSなどを見て「ここが盛り上がってるから、この話を大きくしよう」となって、変えてしまうんじゃないかと。でも私としては、それはどうかな? と思うんです。最初に自分たちが「こういうドラマを作りたい」と思ったことを、突き進んでやっていくべきじゃないか? と。
──そのためには、観る側と仲良くするのではなく、緊張関係を保った方がいいと。
そういった意味も含めての「お客さんは敵」です。決してお客さんが嫌いというわけではなく、敵にもなり得るということ。特に私は舞台もやっていますけど、お客さんが笑ってくれて「あ、ここおもしろいんだ」と思って、次の日もそんな感じでやったら全然笑わなくて「あれ?」ってなったりしますからね(笑)。だからやっぱり、自分は自分だという。「自分を優先」という気持ちで、お客さんをあえて信用せず、怖いものだと思ってやっていかないといけない…というのは、肌で感じています。

──その思いが、ワールドプレミアで少し変わったんですね。
敵という意識はなくならないけど、本当に来たくて舞台挨拶に来ているんだと思っていいんじゃないか? と。これからはお客さんを信じて、気持ち良く舞台挨拶に出ていこうかな、と。そういう意味でも、ディズニーには心の底から「貴重な経験をありがとうございます!」って思いますね。

──それでは映画の公開に向けて、おすすめのポイントなどを。
ちょっと子どもの頃を思い出して、温かい気持ちになるような映画なんです。動物たちがただかわいいだけじゃなくて、大人が見ても心にしみる部分があるというか。特にニックとジュディの関係の変化は、恋人とか親友とか、親密な人と一緒に観るとおもしろいかもしれないです。だから私はホリデーシーズンにピッタリの映画だと思います。
◇
『ズートピア2』は12月5日より全国の劇場で公開中。“もふもふなのに深い”と社会現象を巻き起こしたディズニー映画『ズートピア』の最新作。動物たちが人間のように暮らす夢の都市“ズートピア”に突如現れたヘビをきっかけに、その誕生に隠された巨大な謎が動き出す。頑張り屋なウサギの警察官・ジュディと皮肉屋なキツネの相棒・ニック―正反対なふたりの絆が試される。
取材・文/吉永美和子
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