本当の転換点は「茶菓子」? 一橋治済への「仇討ち」を紐解く【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第47回より。徳川清水家で作戦の実行を待つ能役者・斎藤十郎兵衛(生田斗真)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。12月7日の第47回「饅頭(まんじゅう)こわい」では、一橋治済仇討ち計画に、なんと将軍であり実の息子でもある徳川家斉が前線で参加。その大きなきっかけを作ったのが、あの「天の言葉」だったことに驚きの声が上がっていた。
■ 御三卿・清水重好の茶室で…第47回あらすじ
重三郎に、将軍・徳川家斉(城桧吏)を介して一橋治済(生田斗真)に毒を盛るという提案をされた松平定信(井上祐貴)は、御三卿の一人・清水重好(落合モトキ)に協力を仰ぐ。
鍵を握るのは、前の将軍・家治(眞島秀和)が臨終前に治済に告げた言葉を、まだ幼かった家斉が思い出すこと。重好によって記憶を揺さぶられた家斉は、重三郎を通じて受け取った乳母・大崎(映美くらら)の手紙を通じて、治済がすべての黒幕だと確信した。

重好の茶室に家斉と治済が招かれ、重好が出したお菓子とお茶を家斉は口にする。それを見て治済も同じお茶を回し飲むが、2人はもろともに昏倒。実は重好が盛ったのは眠り薬で、家斉はあえて自分もそれを飲むことで治済を油断させたのだ。
親殺しは儒教の教えに反するため、治済は阿波徳島の孤島に送られることに。そして、同じ阿波徳島の能役者で、治済に瓜二つの斎藤十郎兵衛(生田斗真/二役)が替え玉となった・・・。
■ 写楽=斎藤十郎兵衛…最終回でもう一波乱?
前回ラストで登場して、思わず「は?!」と声を出した視聴者も多かったであろう、一橋治済と瓜二つの男。なんと彼は、現在もっとも有力な「東洲斎写楽」候補となっている、阿波徳島藩お抱えの能役者・斎藤十郎兵衛その人だった!

ここ最近、治済がしょっちゅう江戸の町をウロウロしてるなあ・・・と思ったら、どうやらそれはほぼ斎藤さんだったことが、長谷川平蔵宣以(中村隼人)の証言で明らかになった。
なぜ「斎藤十郎兵衛写楽説」が有力かについては、以前のコラムでも取り上げたけど、まずこの少しあとに出版された『増補浮世絵類考』という、浮世絵大全みたいな冊子に「写楽は斎藤という能役者」という記述があったことが決め手となっている。
斎藤が居住したと伝わるのは、江戸の東側で「州(三角州)」のあるエリア。「東洲斎」という名字は、彼の居住地に斎藤の「斎」を足したものだった・・・と考えられる。

また、写楽がデビューした年は、雇い主の阿波徳島藩藩主が参勤交代で国元に帰っている年だった。なので、あまり藩に拘束されず、比較的自由に動きやすい時期だったわけだ。写楽が1年足らずで活動を停止したのは、殿様が江戸にやって来る年になったからと考えると、確かに辻褄が合う。
とはいえ、斎藤十郎兵衛自身の作品とか下絵が残っているわけではないので、断定はできないというのがどうやら現状らしい。

しかし「写楽=斎藤十郎兵衛」という記録があるのは確かなので、これから写楽と斎藤を紐づけする必要がある。現段階ではあくまでも、斎藤と治済の入れ替えが成功しただけ。
次回で注目されるのは、どうやって写楽を斎藤十郎兵衛の個人の仕事ということにして、阿波の孤島に追いやられた治済の存在とミックスしていくか? だろう。どうやらこのミステリーが、『べらぼう』最後の「そうきたか!」になりそうな予感がする。
■ 第31回・前将軍の言葉がラストピースに
一橋治済がいろんな人を暗殺しはじめて、当初の予想以上の悪漢だったことがわかったとき、多くの人が治済の末路をググったことだろう。そして法の裁きを受けるどころか、准大臣にまでなって長生きしたという史実に、砂を噛むような思いをしたはずだ。

実際の治済は多分ここまでサイコパスではなかったとは思う(というか思いたい)けれど、なんせ徳川家後継者レースで一人勝ちしたしたわけだから、なにかやらかしたと思われても仕方がないだろう。
史実通り治済の地位を守りつつも、ひそかに成敗するには、替え玉を作るだけでなく、幕府・・・特に実の息子である将軍が承知しなければ、とてもじゃないけど実現不可能。

この少し前から、家斉が治済に不満や疑念を抱く出来事を周到に重ねていたけど、決定打となったのは、養父である前将軍・徳川家治(眞島秀和)臨終の際に、治済が自分も含めた大勢の人間の死に関わっていることを、その場にいる人たちにほのめかした現場を思い出したことだ。
あのとき家治が、幼かった家斉に「悪いのはすべてそなたの父だ」と謝罪したと思われたのは、本当は「悪いのはすべてそなたの(実の)父だ」という忠告だった。

清水重好というダークホースキャラの暗躍と、治済の「夢かうつつお分かりにならぬ」という言葉が引き金となり、分厚いオブラートに包まれていた家治の告発を、家斉がついに理解することに。さらに大崎の密書によって、最後の大きなピースが完全にはまった。
■ 本当の転換点は「茶菓子」だった?
こうして「世の太平のために、公方様に毒饅頭を盛ってもらう」という重三郎の大胆極まりないアイディアは、家治が最後に仕掛けた罠が良いタイミングで発動したこともあり、人知れず実行することができた。

しかし、本当のターニングポイントは、治済が茶室で出された菓子に手を付けず、家斉に毒見をさせたことだったかもしれない。治済にとって家斉はあくまでも傀儡であり、死のうがどうなろうが構わなかった・・・もしあそこで普通にお菓子を食べて、優しい言葉をかけていれば、捨て身の毒抹茶作戦は決行されなかったかもしれない。
1つの大きな事件は、1つの動機だけで動くわけではない。いくつかの小さな糸が少しずつ絡み合い、それが徐々に大きな紐となり、やがて綱となって社会を動かすことになる。
すべてが上手く行ってたゆえの治済のおごり、治済が甘く見ていた大崎と家斉の絆、家斉自身の成長、定信と重好の御三卿タッグの連携、一介の本屋のたわけたアイディア、そしてなによりも「天をかたる者のおごりを許さない」という家治の決死の思い。そのすべてが、愉快犯のように江戸を騒がせた巨悪の社会的抹殺というカタルシスにつながった。

大河ドラマの強みと魅力は、1年というロングスパンで「小さな糸」を大量に作り上げ、それが縄になるまでの過程をじっくりと見せることができるという点だ。
『べらぼう』は、重三郎が次々にアイディアを実現することで、おもしろイベントを短いスパンで発生させる一方、幕政パートは限界まで「一橋治済」という負荷をかけつづけた。これが幕政パートだけのドラマだったら、脱落者が続出したかもしれないと思えるほどの辛抱強さだ。

重三郎の痛快な活躍によって幕政パートの重さを和らげ、逆に重三郎の話も政治の陰謀が絡むことで重厚となり、最終的に「写楽」を通じて1本の極太な縄となった。この二重構造の持つ大きな意味を、ラス2となって改めて痛感したわけだが、その辺りは最終回でまた語れることもあるだろう。
重三郎のラストスパートだけでなく、治済が結局どうなったかも描かれていくというが、どうか『巌窟王』のように、復讐を果たすために死ぬ気で江戸に戻って来るなんて展開にはならないでほしい(やりそうだし)。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。12月14日の第48回(最終回)「蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)」では、脚気の病に倒れながらも、最後まで新たな本作りに挑んでいく重三郎の姿を、通常より15分拡大して描いていく。
文/吉永美和子
関連記事
あなたにオススメ
コラボPR
-
大阪・関西ランチビュッフェ2025年版、ホテルの食べ放題を満喫
NEW 19時間前 -
大阪スイーツビュッフェ・リスト2025年版、ホテルで食べ放題
NEW 20時間前 -
華やかスイーツ!京都のいちごビュッフェまとめ・2026年版
2025.12.5 14:00 -
華やかスイーツ!大阪のいちごビュッフェまとめ・2026年版
2025.12.5 11:00 -
大阪クリスマスケーキ2025年、高級ホテルから百貨店まで
2025.12.5 10:30 -
京都クリスマスケーキまとめ2025年、百貨店から高級ホテルまで
2025.12.4 11:00 -
独自の進化を遂げた「宮崎うどん」3つの謎に迫る[PR]
2025.12.3 08:00 -
大阪アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.12.2 11:00 -
京都アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.12.2 09:00 -
クリスマスはコスパ良く!ケーキやチキンをテイクアウト[PR]
2025.12.2 07:30 -
神戸を代表する4軒のバーで楽しむ『碧Ao』カクテル[PR]
2025.12.1 09:30 -
やなせ先生ゆかりの地で、「土佐弁」に触れる旅[PR]
2025.11.28 20:00 -
大阪のクリスマスランチ&ディナービュッフェ特集、ホテルで食べ放題・2025年版
2025.11.28 12:00 -
神戸アフタヌーンティー2025年最新版、編集部取材のおすすめポイントも
2025.11.28 10:00 -
狙うなら今!北海道の穴場スポットへ[PR]
2025.11.28 07:30 -
街を丸ごと遊び尽くせる、OMOろい旅 in 旭川[PR]
2025.11.23 11:00 -
Osaka Pointでおいしくたのしく大阪めぐり[PR]
2025.11.21 17:00 -
京都のクリスマスランチ&ディナービュッフェ特集・2025年版
2025.11.20 14:00 -
神戸のクリスマスランチ&ディナービュッフェ特集・2025年版
2025.11.20 13:00 -
関西人に調査! ○○は許せる? 許せない?[PR]
2025.11.20 11:00 -
現地取材で発見!知らなかった宇治の魅力【2025年最新版】
2025.11.8 09:00


トップ
おすすめ情報投稿
Lmaga.jpとは
ニュース
まとめ
コラム
ボイス
占い
プレゼント
エリア







人気記事ランキング




写真ランキング




ピックアップ







エルマガジン社の本

