写楽の有力説「斎藤十郎兵衛」が鍵に? 一橋治済への仇討ち【べらぼう】

1時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。松平定信たちが潜む浄瑠璃小屋に現れた、一橋治済(生田斗真)似の男(C)NHK

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江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。11月30日の第46回「曽我祭の変」では、歌麿&北斎によって「プロジェクト写楽」が完成に至る一方で、最後の最後に衝撃的な「謎の男」が登場。彼が史実の東洲斎写楽とどう絡むのか、最終回まで油断ができなさそうだ。

■ 絵師の共作で生まれる…第46回あらすじ

「写楽」による役者絵を作る仲間に喜多川歌麿(染谷将太)が加わり、役者の特徴を際立たせた独特の絵を早速生み出す。さらに勝川春朗(葛飾北斎/くっきー!)からは、遠近法を取り入れるというアイディアが。

ほかの絵師たちの絵もコラージュしながら、ついに理想の役者絵が完成。依頼主の松平定信(井上祐貴)はその出来栄えに満足し、江戸の誉れという意味を込めて「東洲斎」という名字を付けるよう命じた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。『曽我祭』で賑わう芝居町の様子(C)NHK

芝居小屋の役者たちが素顔で町を練り歩く「曽我祭」の日に、蔦屋は仮設の本屋を作り、東洲斎写楽の役者絵28作品を大々的に売り出すが、自分の特徴を良くも悪くも強調した絵に、役者・中山富三郎(坂口涼太郎)が激怒するという事態が。

しかし、それが評判となって絵は大いに売れ、その正体は平賀源内(安田顕)という噂も広まっていく。その声はついに、一橋治済(生田斗真)のいる江戸城にまで届いた・・・。

■ 「写楽」完成に、ドラマ制作陣の苦労の跡

ドラマ最終回まであと2回を残すところで、東洲斎写楽の役者絵のなかでも、もっとも有名な『三代目大谷鬼次の江戸兵衛』が誕生するまでが描かれた第46回。歌麿と春朗という天才絵師2人が加入したことで、難航していたプロジェクトは突如歯車が回り始めた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。独特の表現で遠近法を伝える絵師・勝川春朗(のちの葛飾北斎/くっきー!)(C)NHK

歌麿が人間の表情をリアルにとらえるという土台を築き、ほかの絵師たちのいい所をピックアップし、さらに春朗が蘭画の特徴である遠近法を加えて「源内っぽさ」をプラスするという、共同作業のお手本にしたいような見事な流れだった。

『べらぼう』の公式サイトを見ると、今回の『大谷鬼次』の絵ができあがるまで、各絵師たちの特徴をどのように反映していったかという、その研究と苦労の跡が見える。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。「写楽」の役者絵を完成させた、絵師・喜多川歌麿(写真中央、染谷将太)たち(C)NHK

たとえば、顎のラインが採用された北尾重政(橋本淳)は、親友で役者絵の名人だった勝川春章(前野朋哉)の影響を受けている・・・というところまで推察されていた。大河ドラマの時代考証と美術版のタッグの賜物と言えるような傑作だろう。

歌麿が「写楽」の中心となっていることを隠すために、関係する絵師と戯作者たちが、稽古場に集まってみんなで一斉に模写をするというのは絵面的にもおもしろかったけど(歌麿の大先生芝居も!)、全員が一人の役者をスケッチすることで、おのおのがその人物のどこに一番目が行き、絵にしやすいのかを確認し合う機会になった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。芝居小屋で写生する絵師・喜多川歌麿(写真中央、染谷将太)たち(C)NHK

そして、この作業を通じて、写楽に複数の画家のエッセンスを詰め込むことに成功し「歌麿のようだけど歌麿じゃない、重政のようで重政ではない。では誰だ?」という、万人の興味をそそる絵が完成することになったわけだ。

■ 100年早かった…実際は大ヒットならず

そうした苦労を経て、ようやく世に出た写楽の役者絵。ドラマでは飛ぶように売れて江戸っ子たちの話題をさらっていたけれど、実際は大ヒットとはいかなかったそうだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。重三郎(写真右、横浜流星)に、役者絵の描かれ方について文句を言う「グニャ富」こと歌舞伎役者・中山富三郎(写真左、坂口涼太郎)(C)NHK

劇中でグニャ富がヒステリーを起こしたように、理想化されていないリアルな自分の姿にショックを受けた役者もいただろうし、買う側にも「こんな推しは見たくない」と思われたのだろう。実際、大田南畝(桐谷健太)は後年「役者のありのままを描きすぎたために、人気は長続きしなかった」と、当時の状況を証言している。

写楽がようやく評価されるようになったのは、明治時代になって写実的な描写を好む西洋人たちに絶賛されてからだ。ここまでは時代のちょっと先を読んで、最先端のエンターテインメントを見事に生み出してきた重三郎だったけど、写楽に関しては100年ほど先を行き過ぎてしまったことになる。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。耕書堂で重三郎(写真左、横浜流星)に話しかける一橋治済(写真右、生田斗真)(C)NHK

とはいえ、結果的には、ブレイクが自分の死後になるとはいえ、日本の浮世絵文化を代表する絵師をその手で生み出したわけだから、やはり超一流のプロデューサーであることに違いはない。

今回は「平賀源内生存説を流すため」という型破りな動機で誕生した写楽像だったけど、今もっとも有力な写楽候補と言われている斎藤十郎兵衛一人の仕事だったとしたら、その才能に出会ったときの重三郎の驚きと力の入れよう、そして、その思惑が外れた時の絶望はいかばかりだっただろうか。

幕府の陰謀と重ね合わせて、スケールの大きな「歴史のif」を実現した今回の写楽像も誠に愉快だけど、そっちの切ない路線もちょっと見てみたかった気がする。

■ 写楽の有力説「斎藤十郎兵衛」が鍵に?

さて、こうなると「斎藤十郎兵衛はどうなるんだ?」という意見が、特に史実過激派の人からは当然出てくるはず。このままいなかったことにするということはないだろう・・・と思っていたら、今回の最後の最後で、一橋治済のそっくりさんが登場するという驚きの展開が待ち受けていた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。松平定信たちが潜む浄瑠璃小屋に現れた、一橋治済(生田斗真)似の男(C)NHK

彼と十郎兵衛にどのような関係が? と思うかもしれないが、実は十郎兵衛は専業の絵師ではなく、阿波徳島藩お抱えの能役者が本業と記録されている。

能役者といえば、ドラマ後半の一橋治済はずっと能にハマっていた。衣裳を新調して松平定信に説教を食らったり、能面を床一面に並べて吟味するなど、かなりの入れ込みよう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第37回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第37回より。能面を手に持つ一橋治済(生田斗真)(C)NHK

ドラマの前半では糸あやつり人形にあれだけ夢中で「傀儡(くぐつ)師」なんて呼ばれていたのに、飽きたのかなあ・・・というのはさておき、もしかしたら斎藤十郎兵衛となんらかの形でつなげるための、能マニア設定になったのだろうか?

定信だけでなく、重三郎や蔦屋の人々にもその毒牙を向け始めた一橋治済だったけど、どうやら次回予告によると、息子の徳川家斉(城桧吏)までその仇討に関わってくるようだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第46回より。11代将軍・徳川家斉(写真右、城桧吏)に詰め寄る一橋治済(写真左、生田斗真)(C)NHK

幕府の後ろ盾という大きな力と、能役者・斎藤十郎兵衛というジョーカー的な存在によって、治済をなんらかの形で抹殺し、今回登場したそっくりさんと入れ替えるというミラクルが、果たして実現できるのだろうか? 来週はとんでもなく痛快な展開が待っているということを願って、一週間を待とう。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。12月7日の第47回「饅頭(まんじゅう)こわい」では、重三郎が出した驚きの策により、一橋治済の仇討ち計画が、将軍・家斉も巻き込んで再開されるところが描かれる。

文/吉永美和子

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