京都・寺が警鐘…愛宕山で遭難が多発「無謀な登山者」に共通するワケとは?

33分前

京都のお寺が警鐘、訪日外国人や高齢者による「無謀な登山の遭難」(画像提供:月輪寺【公式】)

(写真8枚)

京都市右京区にある、火伏せ(防火・鎮火)の神の山として知られる「愛宕山(あたごやま)」。

空也上人が修行をしたと伝わる『鎌倉山 月輪寺(つきのわてら)』(@tukinowatera)は、愛宕山の中腹に位置し、登山を兼ねた参拝客も多いという。

そんな月輪寺が頭を悩ませているのが、高齢者やインバウンド客による「無謀な登山者の遭難」だ。少なくともこの10年間で、行方不明者を含む数人が死亡しているという。月輪寺の広報担当者に詳細を聞いた。

■死亡事故も…「高齢者」と「訪日外国人」による無謀な登山

ーー「無謀な登山者」の遭難とはどういった状況なのですか?

「とくに深刻なのが、高齢の方の単独登山です。気づいた時はお声がけしますが、そういった方の中には、話が噛み合わないなど会話が困難で、認知症が疑われる方もおられます。馴染みの参拝者様からお聞きした話ですが、”昔から登山が好きで、老人ホームから抜け出してきた”とおっしゃる高齢の方と遭遇し、保護なさったそうです」

京都市内の「山」で、高齢者やインバウンド客の無謀な登山による「遭難」や「事故」が後を絶たないという(画像提供:月輪寺【公式】)
京都市内の「山」で、高齢者やインバウンド客の無謀な登山による「遭難」や「事故」が後を絶たないという(画像提供:月輪寺【公式】)

ーーなぜ事故や遭難に…?

「全国どこの山でも起きている問題だと思いますが、『途中で道がわからなくり、動けなくなる』『時間感覚がわからなくなり、夜になる』『途中で体力がなくなったり、過労で倒れる』『近道だと思い込みやルートから外れた登山道や獣道に入る』『下山する時間までが頭に入っていないため、昼過ぎからや夕方近くから登山を開始する』『軽装での入山』などです。

木々が生い茂る山は、都心よりも早く暗くなります。暗くなると下山を急ぐため、登山道から外れた道を近道だと思い込み、遭難事故や滑落事故や転倒事故が起きます。日没後の山は気温が急激に下がるため、体調不良で動けなくなる事故も起きます」

■「日本語ワカラナイ」で警告を無視する外国人

ーー訪日外国人の弾丸登山による事故や遭難も増えているそうですね。

「訪日外国人の方の場合、入山・下山、見学施設の時間など、山の時間のルールを無視する方々が非常に多いです。また、外国人登山者のほとんどが、日本語が話せない・読めないため、こちらの警告を理解できず、ルールを守れません。

意思疎通のためにスマホの通訳アプリを使おうにも、山は圏外が多く使用ができません。2019年に単独で愛宕山に入り遭難した中国人観光客も、日本語が話せず、丸一日かけて右京署が捜索し、当方も夜通しお手伝いいたしました」

■外国人も同じ…「無謀な登山者」に共通する「言い訳」

ーー京都市内にある山だから楽勝だ、と勘違いしているのでしょうか。

「今も昔も、山が危険の多い場所であることに変わりはありません。愛宕山の登山は往復で平均6時間以上かかります。山なのでスマホは圏外になることが多く、繋がっても目印になる場所は少なく、英語など外国語による案内看板もないため、救助や捜索に時間がかかります。また、愛宕山は崖崩れなどが起きている場所もあり、ツキノワグマも出没するため大変危険です。

昨今の山の遭難・事故は起こるべくして起きていると感じます。外国人に限らず、無謀な登山者の多くが、現場の注意や指示に従ってくださいません。危険であることをわかろうともせず、わかっていたとしても、こちらに強い権限がないため、皆さま口を揃えたように必ず同じことを言い張ります。

それは、『ここまで来たんだから帰らない』です。自分ルールが発動し、頑なに引き返せない人が大半です。そして強行し、起こるべくして遭難や事故に遭う。この繰り返しです。現地の方からの注意・警告はあなたの命を守るためであることを真摯に受け止め、山のルールに従っていただきたいです。『郷に入っては郷に従え』です」

愛宕山にはクマやイノシシなど、多くの野生動物が生息。月輪寺の境内にはたくさんの野生の鹿が集まるそう(画像提供:月輪寺【公式】)
愛宕山にはクマやイノシシなど、多くの野生動物が生息。月輪寺の境内にはたくさんの野生の鹿が集まるそう(画像提供:月輪寺【公式】)

■深刻な「山のトイレ問題」

ーー遭難や事故以外にも、登山者による問題はありますか?

「他の山のお寺さんでもニュースになっていましたが、『トイレ』の問題です。愛宕山の山道には頂上までトイレがありません。そのため、月輪寺でも同じように、境内や立入禁止場所にあるトイレを無断で使用されたり、ドアを破壊して使用される方がいらっしゃいます。

里のトイレと違い、水道や車道がない場所にある『山のトイレ』の管理がいかに大変であるかを理解していらっしゃらない方が多く、対応に困っております」

■引き返す「勇気」を

ーー登山者に心がけてほしいことはありますか?

「愛宕山の場合ですと、①必ず午前中に登山を開始し、午後からは入山しない、②愛宕山に関する必要な情報の把握、③最低1日以上は山(野宿)で過ごせる装備と食料の準備、④当日の天気予報と自身の体調チェック、⑤当日の行程表を家族や友人などに必ず伝える、またはメモを残しておく、を守ってください。

そして、状況次第では下山や登山口で引き返す『勇気』を持っていただきたいです。また、山では必ず、現地の人が伝える情報(危険情報など)や看板などに書かれていることを守ってください。家に帰るまでが楽しい登山であってほしいと、心から願っております」

◇ ◇

月輪寺の境内は今、愛宕山に生息する野生の鹿の楽園になっているという。

鹿以外にも、愛宕山には多くの野生動物(クマやイノシシ、マムシなど)が生息しており、登山者との遭遇事故も多いそうだ。

「近年の異常気象の影響もあり、愛宕山の斜面は至るところで土砂崩れなどが発生しております。危険な場所が多数あることを念頭に置き、ご自身の安全を十分に考慮して、登山やご参拝をしていただきたいと思っています」(月輪寺・広報)

愛宕山では2012年の集中豪雨による土砂崩れが発生し、月輪寺の愛宕大権現堂も堂内が土砂で埋もれ全壊。2018年の台風でも大きな被害を受けたことから、存続の危機にある月輪寺では現在、災害復旧の支援を募っている。

2012年の集中豪雨による土砂崩れで全壊した月輪寺「愛宕大権現堂」。2018年の台風でも大きな被害を受け、存続の危機に瀕している月輪寺では現在、災害復興支援を募っている(画像提供:月輪寺【公式】)
2012年の集中豪雨による土砂崩れで全壊した月輪寺「愛宕大権現堂」。2018年の台風でも大きな被害を受け、存続の危機に瀕している月輪寺では現在、災害復興支援を募っている(画像提供:月輪寺【公式】)

なお、月輪寺へのアクセスは徒歩のみとなる。山道はかなり険しく、登山用の運動靴・ツエが必須(革靴・ハイヒールは不可)だ。

参拝時間は10時~14時、雨天や強風時、大雨の後、冬季(12月~3月上旬)は参拝不可。※宝物館の拝観は、事前の電話連絡(予約)が必要。

取材・文/はやかわ リュウ

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