松平定信を襲ったクーデター、「寛政の改革」は失職で終了【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第43回より。老中を罷免された松平定信(写真中央、井上祐貴)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。11月9日の第43回「裏切りの恋歌」では、老中から大老へと進化するはずだった松平定信が、思いがけない罠にはまってしまうことに。その原因と同時に、寛政の改革は失敗だったのか? を検証してみた。
■ 「辞める辞める詐欺」で本当に罷免…第43回あらすじ
老中・松平定信(井上祐貴)は、11代将軍・徳川家斉(城桧吏)から、そろそろ自分で政を行いたいが、定信が将軍補佐職から降りても、政に関わることはできないかと問われる。定信は特例で「大老」になれば、将軍補佐に近い立場になれると提案。その地位を盤石にするために、蝦夷に来たオロシャ(ロシア)の使節に信牌(海外向けの唯一の港・長崎港の通行許可証)を渡すことで、いったん国に帰すという作戦を成功させた。

定信は家斉に「早く下城したい」と願い出る。これは定信にとって、大老に就任するための方便だったはずだが、家斉は今の役目を解いただけで、今後は政に関わらずゆっくり休むように命じた。
家斉と、定信以外の老中たちに欺かれたことを知り、全員が地獄に落ちるように呪う定信。市中の人々が定信の辞任を喜ぶなか、かつての大奥総取締・高岳(冨永愛)が定信の前に現れ、かつて徳川家基(奥智哉)が使った手袋を差し出した・・・。
■ 大老を狙ってたのに…突然のクーデターで失職
このコラムではたびたびネタバレしてはいたが、松平定信の「寛政の改革」は、わずか6年で終了した。田沼意次(渡辺謙)が30年以上権勢をふるったのに比べると、本当に短期政権だった。
確かに「あれをするな」「これをするな」の連続で、生きていくには実に窮屈な状況。たとえ幕府の財政を黒字に転じさせたとしても、これはもう「とっとと終わりにしたい」と周囲が思ったのも、致し方ないという感じだろう。

史実での定信の辞任は、一応は本人の希望となっているが、実際は家斉の不興を買って罷免された説の方が有力だ。その大きなきっかけは、ここ数週間話題にしつづけている「尊号一件」によって、父・一橋治済(生田斗真)を大御所にし損ねたからと言われているが、『べらぼう』はあまり将軍の反応は描かなかった。
むしろ尊号一件だけを契機にするのではなく、周囲の人々の定信への不満ムードを徐々に高めて、ここぞというところでクーデターを起こすという流れに仕立て上げた。
まず定信がオファーされると信じ込んだ「大老」は、基本的には非常事態のときのみ置かれる臨時職で、徳川宗睦(榎木孝明)が述べていた通り、酒井家や井伊家などの4家(5家説も)のみ任命される。
もっとも有名なのは幕末の井伊直弼だろうけど、江戸時代を振り返ってみると12人が役職についてるので、意外と多かった。また徳川綱吉時代には、意次のように側用人から成り上がった柳沢吉保が「大老格」という曖昧な地位についている。定信が目をつけたのはこの先例だ。

しかし家斉が狙っていたのは、政治的手腕はともかく、日頃から自分の行いについてうるさく言ってくる定信をなんとかして追放することだった。そしてほかの老中たちからの愚痴をいちいち聞かされていた、治済が裏で糸を引いていたのは間違いない。
めちゃくちゃ聞き流しているように見えて、実はしっかりと「自分の悪巧みの味方になるか否か」を見定めていたのだろう。さすが本作最大のヴィランである。
■ 敵対関係の蔦重&松平定信、同じ過ちで窮地に
というわけで、オロシャ問題を手際よく解決したことのおごりも重なって、家斉とその一派のたくらみにまったく気付けなかった定信。オロシャの件がなかったら、このクーデターに気づけていただろうか?
普段の家斉の態度から「ずっと政を支えて欲しい」という言葉を鵜呑みにはせず、大老の約束を一筆したためるぐらいはやっていたんじゃないかと思う。「自分は絶対的に信頼されている」という大きな油断と思い込みで足をすくわれたのは、今回歌麿に裏切られる形となった重三郎と完全に重なった。

田沼意次のアドバイスによって本屋の道を見つけ、田沼時代の自由な空気によって前例のない成功を収めた重三郎。それに対して松平定信は、質素倹約によってそのイケイケモードに強いブレーキをかける側となった。
しかし恋川春町(岡山天音)の自死は、奇遇にもそれぞれの信念・・・重三郎は「田沼時代の再来」、定信は「田沼病の駆逐」に凝り固まり、身近な人々の思いを無視して猪突猛進するという、同じ過ちをおかしてしまった。

蔦屋重三郎と松平定信というあきらかに敵対関係な2人が、似たような失敗をして、同じようなタイミングで裏切りにあって、すべてを失ってしまうとは、本当に合わせ鏡のような存在だ。
しかし今回、あの因縁の「死を呼ぶ手袋」の存在を定信が知ったことで、もしかしたら再び両者に接点ができるのだろうか。そしてここに来て浮上した、平賀源内(安田顕)の名前・・・もしかしたら生存していた源内先生が写楽でした! ってことになるのか? ここからどんなミステリーが展開されるのか、期待して見守りたい。
■ 「寛政の改革」は短命だけど…政策は明治まで
ちなみに「寛政の改革」は短期間で終わったけど、最後の紀行で「定信の政策は幕末、明治まで受け継がれる」と語られたように、定信を陥れた老中たちはその政までは否定せず、外交や経済政策などの大部分を継続した(それ以上の代替案が出せなかったのかもしれないが)。
とくに農村復興策の数々や、長谷川平蔵宣以(中村隼人)が奔走した無宿人の支援施設「人足寄場」は世界的にも非常に進んだ福祉政策で、今の一万円札となっている明治の実業家・渋沢栄一も高く評価している。

また町のインフラ整備のために、町人たちから一定のお金を積み立てることを義務とした「七分積金」は、幕府が終わる頃には膨大な額となり、それが文明開化後の都市計画を進めるための資金になったというから、定信も草葉の陰から驚いていたかもしれない。
『べらぼう』では主人公の敵役ということで、なにかと損な役回りとなった松平定信。しかし私たちが現在受けられる社会的な恩恵を、実は最初に考えて実行した人だということを、この機会に胸に刻んでおこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。11月16日の第44回「空飛ぶ源内」では、重田貞一(のちの十返舎一九/井上芳雄)が耕書堂で本を書くために売り込みに来ると同時に、平賀源内の生存を重三郎に匂わせるところが描かれる。
文/吉永美和子
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