「招かれざる客」は誰のこと? 3人の運命変えた、外国船、商売敵、そして…【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第42回より。妻・てい(橋本愛)のお腹にいる子どもに話しかける重三郎(横浜流星)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。11月2日の第42回「招かれざる客」では、重三郎にも喜多川歌麿にも松平定信にも、あまり歓迎できない来訪者が。それによって3人の運命が、どのように動いたのかを振り返ってみた。
■ 難局に立つ松平定信、独裁強める…第42回あらすじ
老中・松平定信(井上祐貴)の元に、蝦夷(北海道)にオロシャ(ロシア)の船がやってきて、日本人漂流民を連れ戻すと同時に通商を求めてきた。ほかの老中たちが受け入れようとするなか、定信はそのまま攻め込まれる恐れがあると断固反対する。また「尊号一件」の方も、帝が尊号を強行するなら、幕府からの金銭援助を打ち切ると言って阻止。さらに間に立った公家たちを、朝廷に断ることなく定信の一存で処罰する。

老中たちは一橋治済(生田斗真)に相談するが、逆に喜多川歌麿(染谷将太)の美人画の影響で、市中の物価が上がっているという情報を流す。老中たちは「田沼病が息を吹き返している」と定信に進言し、錦絵にモデルの名前を記すことを禁止にした。さらに歌麿の描いた「婦人相学十躰」も、実際の相学と食い違いがあるためにトラブルが起こっているという理由で、タイトルの一部を削除することになった。
■ 「招かれざる客」を考える、1人目は外国船
今回のサブタイトルの「招かれざる客」という言葉。物語を振り返ってみると、本当に登場人物たちの運命を、良くない方向に変えそうな客人が続出した回でもあった。
まず圧倒的に来てほしくなかったのが、オロシャの船。御存知の通り当時の日本は鎖国をしていて、朝鮮・中国・オランダ以外の国とは一切の関係を絶っていた。ただそれは建前で、蝦夷を治める松前藩はオロシャと密貿易をしていたのは、ドラマを最初から見ていた人はすでにご存知だろう。

そこにやってきたのが、アダム・ラクスマン率いるオロシャの遣日使節だ。名目は10年前にオロシャに漂着した船頭・大黒屋光太夫(彼の人生もおもしろいのでいつか調べてみて)を引き渡すためだったが、主目的は日本の開国だった。
松前藩がオロシャの抜荷で大きな利益を得ていたことは、老中たちの言葉通りご公儀にはモロバレ。だったらまだまだ財政が苦しい幕府も、直接取引をすればさらに莫大な冨を得られる・・・と考えてもおかしくはない。しかし松平定信は、それをキッパリと拒否した。
確かに最初は貿易からはじまっても、小さな蟻の穴から大きな堤防が決壊するように、日本侵攻を許す隙となる恐れがある。特に当時のロシアの君主・エカチェリーナ二世は、領土の拡張に非常に熱心だったことを考えると、素直に受け入れていたら大変な事態になったかもしれない。
読書熱心な定信であれば、禁書となった林子平の『海国兵談』を確認がてら一読し、ちゃっかり参考にした可能性もある。この対応が彼の政治生命を伸ばすのか否か、しばらく見守ろう。

さらなる客は、前回出てきた歌麿の錦絵「婦人相学十躰」について、蔦屋に苦情を申し立てた観相家(田中裕二/爆笑問題)だ。実際このシリーズは、初刷以降は「浮気ノ相」などの相学(人相学)に当てはめた副題が、すべて削除されている。
その理由は諸説あるけれど、『べらぼう』ではドラマの浮世絵考証を担当する、浅野秀剛氏が提唱した「相学関係者のクレーム」を採用。田中・・・いや、観相家がどんな口調でクレームを入れたのか、ドラマでは省かれちゃったけど、ちょっと見てみたかった気がする。
■ 2人目は、蔦重にライバル現るも…天の恵み?
もう一つの「招かれざる客」は、歌麿の元を訪れた西村屋与八(西村まさ彦)&万次郎(中村莟玉)だ。かつて西村屋の看板商品の錦絵『雛形若菜』のコピー本を、歌麿が蔦屋から出したという因縁があったけど、今度は西村屋からオリジナルの作品を出版するよう願い出てきた。
重三郎への義理と愛情を感じる歌麿には、なかなかやっかいな客人だ。しかし歌麿の大ファンだという万次郎は、看板娘シリーズに対抗した美男子図鑑や、モノクロの錦絵など、いかにも興味をそそられる案思を次々に繰り出した。

ドラマ前半で鱗形屋が店を畳んだとき、まだ幼かった万次郎が「お前のせいだ!」と重三郎を責めていた記憶がある。もしかすると彼は西村屋に入ったときに、重三郎に手痛い復讐を果たすではないか・・・と勝手に予想をしていたのだけど、そんなことは匂わせもせず、純粋に「憧れの歌麿先生と仕事がしたい!」という気持ちだけで交渉に臨んでいた。来週以降どうなるかはまだ不明とは言え、とりあえず万次郎には頭を下げておきたい。
ただ、美女のブロマイドの量産ばかりを依頼される現在の蔦屋との仕事ぶりは、万次郎が指摘した通り、歌麿の才能の幅を狭めているのは間違いない。
顧客に喜ばれるなら、同じことを繰り返しても苦痛にはならない職人的なアーティストもいるだろうが、歌麿は「いつかは消える命を写し取り、美しい抜け殻を作る」という使命感に満ちたアーティストだ。そろそろ美女以外の「命」も描きたくなるだろう。

西村屋与八の「歌麿の名前より蔦屋の印の方が上になってる問題」は、蔦屋をライバル視する商売人の嫌らしさが含まれていたものの、実は歌麿にとっては「招かれざる」どころか天の恵みとも言える来訪者だったのではないか。実際SNSでも「いま初めて西村屋さんに共感してるわ」「まさかの西村屋に味方するなどという未来を誰が想像しただろうか」など、西村屋への移籍を勧める声の方が根強かった。
■ 3人目は…歌麿の「子ども=作品」は優先されず
そしてもう一人の「招かれざる客」なのだが・・・歌麿にとっては、重三郎とていの間にできた子どもは、ちょっと酷な言い方をするとそういう存在ではないだろうか。ただでさえ自分が男であるために重三郎の「本妻」とはなれず、ていをなにかと意識している歌麿だ。
天と地がひっくり返っても、自分には実現することができないことが、重三郎との子作り。とはいえ歌麿にとっては、重三郎と一緒に作り出す作品こそが、2人の子どもという自負があっただろう。

しかしその「子作り」も、重三郎は「弟子に描かせちゃえばいいじゃない」と言い出すようになってきた。重三郎は歌麿の負担と弟子の育成を考えたのだろうが、本人にとっては「ほかの人が作った子どもを、自分の子どもということにすればいい」と言われたのと同然の仕打ち。
そこに恋敵のおていさんが、子ども代わりではない「本当の子ども」を宿したわけだ。そして重三郎は歌麿よりも、そっちの子どもの方を優先して頭を下げた・・・。

こうして書いているうちに、どんどん重三郎に「このべらぼうめ!!」と怒りが湧き上がってきたけれど(笑)、子どもができたことで守りに入るという行為が、良い方に転ぶこともあれば悪い方に転ぶこともある。
子どものために蔦屋を守り抜くことを第一に考えるあまり、歌麿の気持ちを考えず「金の卵を生むニワトリ」でありつづけることを押し付けてしまった重三郎。このままだと、この寓話のように後悔先に立たずな結末を迎えてしまうことだろう。

そしてもう一つ怖いことがあるんだけど、史実では蔦屋を継ぐのは重三郎の子どもではなく、養子となった蔦屋の番頭だ(このドラマならもしかしてみの吉(中川翼)?)。ということは、重三郎が逝去したときに子どもはいなかったという可能性が、かなり高いわけで・・・なんせ脚本が鬼の森下佳子だけに、最悪な事態も覚悟しておいた方がいいかもしれない。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。11月9日の第43回「裏切りの恋歌」では、歌麿が西村屋で仕事をすることを聞きつけた重三郎の反応と、松平定信が「大老」となるべく動き出すところが描かれる。
文/吉永美和子
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