染谷将太しかできない「激重」感情…危うすぎる再タッグ【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第40回より。絵師・喜多川歌麿(写真右、染谷将太)の肩を組む重三郎(写真左、横浜流星)(C)NHK
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。10月19日の第40回「尽きせぬは欲の泉」では、重三郎から遠ざかろうとしていた喜多川歌麿が、斬新な案思によって再びタッグを組むことに。いよいよ新時代の美人画が生まれようとする期待とともに、2人の関係が相変わらず危うい状態であることも示唆された。
■ 新作アイデアのために歌麿を説得…第40回あらすじ
老中・松平定信(井上祐貴)の風紀取締の影響で、黄表紙も錦絵もすっかり勢いが落ちていた。そのなかで重三郎は、喜多川歌麿(染谷将太)が描いた妻・きよ(藤間爽子)の大首絵をヒントに、町にいる見目の良い一般女性たちをモデルにすることを思いつく。さらに吉原で流行っている、人相見の占い「相学」を合わせて、様々な表情の女性を捉えた大首絵を描くという案思を思いつき、栃木にいる歌麿に会いに行く。

きよが亡くなり、今は女性を描く気になれないという歌麿に、重三郎は「お前の絵が好きな奴は、お前が描けなくなることは決して望まねえ」と説得。その甲斐があって、歌麿は江戸に戻り、重三郎の提案を取り入れて前代未聞の美人画を仕上げていく。さらにその頃、筆を折ると決めた北尾政演(山東京伝/古川雄大)が、煙草屋と兼業で戯作をつづけることを決意。歌麿と京伝は、おたがい「欲」があることを確かめ合うのだった・・・。
■ 身上半減でジリ貧…蔦重が注目した「大首絵」
この第40回の冒頭に出ていた、山東京伝の新作『箱入娘面屋人魚』の1ページ目に描かれた「まじめなる口上」のイラスト、これは蔦屋重三郎を紹介するときに、必ずと言っていいほど使われる、重三郎のほぼ唯一の肖像画(?)だ。編集者が紙面に登場して、みずから本の内部事情を打ち明ける。特に漫画週刊誌でよく使われる楽屋落ちの手法だけど、この元祖もまた、重三郎だったのだ。

さらに今回の重三郎の発明は、これだけにとどまらない。今は摺られることがなくなった人気作品の版木を安く買い取り、新しい表紙を付けて再出版する「再印本」という試みだ。過去の文芸作品を、今風のイラストを表紙にした文庫本にして売り出すというやり方そのまんま。これは新作に頼らずとも、販売する本のレパートリーが増えるというメリットに加えて、新作だと「改」が必須だけど、昔の本なら規制もゆるい・・・という事情もあったのではないだろうか。
とはいえ「口上」は特に読者には刺さらなかったようだし、昔の本ばかり売っても先細りは目に見えている。身上半減で苦しい店の財政を立て直すためにも、なにか目新しいものをドカンと売り出したい。ということで重三郎が目をつけたのは、歌麿が描いたきよの大首絵。このコラムでも何度か描いたように、それまで表情が乏しかった美人画において、モデルの感情が伝わってくるほど、表情や仕草を繊細に描き分けた美人画は、非常に革新的だったのだ。

さらにモデルも高嶺の花の花魁ではなく、誰もが親しみやすい町人の娘にしたというのも、これまでになかった試みだ。まさに当時の「会いに行けるアイドル」の、解像度の非常に高いグラビアだと考えると、重三郎ならずとも人気が出るのは当然と思うだろう。ただそれを実現するには、重三郎に完全に心を閉ざした歌麿との和解が必要だった。とはいえ歌麿は、重三郎の態度のどこに引っかかっていたのだろうか?
■ なぜ、歌麿は心を閉ざした?理由を考察する
単純に考えれば、きよの遺体と引き裂かれたときに「お前は鬼の子だから絵を描きつづけなければならない」という言葉が、歌麿にとってはあまりにも思いやりのないものに聞こえた、ということだろう。ではあのとき、どういう言葉をかけるのが良かったのだろう。歌麿は重三郎の母・つよ(高岡早紀)に「もう自分とは関わりがない」と話していた。つまり人間・歌麿より、絵師・歌麿を優先されたかのように、彼には思えたのではないかと推察する。

自分に惚れている花の井(小芝風花)に「他の男と幸せになれ」と言わんばかりの花嫁指南書を送ったりとか、重三郎は「それ、一番あなたにやられたくない」という言動を、ここ一番でやってしまいがちなところがある。もっと歌麿の痛みに寄り添って、義兄として本気で心配していることを真っ先に伝えていれば、歌麿の心は多分ここまでこじれなかっただろう。とは言っても、歌麿が歩み寄るきっかけとなったのは、やはり「絵」だった。

女性の相貌をアップで、しかも10通りに描き分けるという従来になかったアイディア。しかもそれを依頼したのは、数多くの絵師の絵を知りながらも、自分をこの世で一番好きな絵師だと言ってくれる、当代一のプロデューサー。アーティストとしては、これほど魅力的な仕事の場はないだろう。人間として許せないという感情と、絵師として挑戦したいという意欲を天秤にかけた結果、最終的に「欲」に軍配が上がったというわけだ。
■ 染谷将太しかできない…蔦重への激重感情
こうして再びタッグを組むことになった重三郎と歌麿だけど、やはりこれまでにない絵に挑むというだけあり、試行錯誤の連続となった。しかし文句は言いつつも、これまで誰も見たことがない世界を、2人のラリーで作り上げていくという作業は、想像するだけでもやり甲斐とワクワク感は大きいはずだ。歌麿の態度がどんどん軟化して、ようやく唐丸の時代に戻ったようにタメ口をきいたときには、心底ホッとした。

しかしその安堵感は、肩をももうとした重三郎を激しく拒絶をしたときに霧散する。やはり完全に仲直りとは行かなかったか・・・とも思ったが、その直前に歌麿が、重三郎がタバコを吸う姿をうっとりとした目で眺めているシーンがあったことに、気付いた人も多かっただろう。それはどうも、愛する人の愛しい仕草を「ああ、これこれ」という感じで見つめているような表情に思える。
きよと一緒になることで、重三郎への恋愛に近い激重感情を完全に払拭したと思えた歌麿だったけど、きよがいなくなったためか、あるいは重三郎と2人きりになる時間がまた増えたためか、どうやら昔の思いが復活したようだ。あの拒絶は、これ以上好きにならないための強めのガードだった、ということかもしれない。歌麿、本当に感情が入り乱れすぎるし、染谷将太ほどの俳優でなければ演じられなかった役だと、つくづく思わされる。

歌麿は美人画が大ヒットしたあと、蔦屋以外の板元とも積極的に組むようになるが、それも単純に売れっ子になったからではなく、また重三郎が地雷を踏んだからじゃないか・・・という不安がどうしてもよぎってしまう。
歌麿が「鬼の子」発言を責めたときに「つき立ての餅のように粘っこい」という、それ失言した側が言っちゃダメ! という軽口をサラッと言ってた重三郎だ。遠からず同じ失敗を繰り返してしまいそうなので、こちらも「踏むなよ! どこかわからんけど踏むなよ!」と、しばらくはドキドキしてしまいそうだ。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月26日の第41回「歌麿筆美人大首絵」では、喜多川歌麿による美人画がいよいよ完成に迫ったところと、松平定信が辞職を願い出るところが描かれる。
文/吉永美和子
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