蔦重VS松平定信の「直接対決」痛烈パンチは後世に残る、あの狂歌…【べらぼう】

9時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。老中・松平定信と直接対峙した重三郎(横浜流星)(C)NHK

(写真9枚)

江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。10月12日の第39回「白河の清きに住みかね身上半減」では、重三郎と松平定信の対面が、思わぬ形で実現。ジャンルは違えども、2人とも似たような性格と理由で現在足踏みしている、似た者同士という状態が見えてきた。

■ 老中・松平定信が異例の見分へ…第39回あらすじ

蔦屋が出した北尾政演/山東京伝(古川雄大)の本を絶版処分にした松平定信(井上祐貴)は、奉行に変わってじきじきに重三郎への見分を行うことに。そこで重三郎に「魚は透き通った川と濁った川のどちらを好むか」と問われ、濁った方だと定信が応えると、重三郎は「人も魚もそう変わらない。濁りのある方に行きたがるのが人情」と真っ向から定信を批判した。しかし重三郎への処罰は、財産を半分取り上げるだけで済ませた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。重三郎の妻・ていの訪問を受ける儒官・柴野栗山(嶋田久作)(C)NHK

それは幕府の儒官・柴野栗山(嶋田久作)から、厳し過ぎる処罰をしては御公儀の威信を損なうので、このぐらいの刑罰が賢者にふさわしいと助言されたゆえだった。その頃長谷川平蔵宣以(中村隼人)は「葵小僧」という盗賊団の一斉捕縛に成功。風紀取締の厳しさゆえに悪事を働く人が増えたことを認めようとしない定信に対し、老中・松平信明(福山翔大)は、このままでは田沼意次(渡辺謙)以下の政と言われると諌めるのだった。

■ 後世に残る狂歌「白河の清きに魚住みかねて…」で痛烈に攻撃

「白河の清きに魚住みかねて もとの濁りの田沼恋しき」白河松平家当主・松平定信を揶揄したあまりにも有名な狂歌。

老中首座になった当初は「田や沼やよごれた御世を改めて 清く澄ませよ白河の水」と期待されてから(このドラマでは、定信がみずから歌を広めたことになっていたけど)、わずか4年でこの言われよう。第39回では、重三郎がこの狂歌を使って、定信に痛烈なカウンターを食らわせるのが最大の見どころとなった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。お白洲の上でも、全く悪びれない様子の重三郎(横浜流星)(C)NHK

老中がお白洲で裁きをするのは、まあありえないことなんだけど、定信はいっとき蔦屋のことを「大明神」と呼んだほどの強火担ということで、みずから重三郎と同じ土俵に上がるという大胆な選択を行った。

これは当代一の黄表紙の編集者を一目見てみたいというのもあっただろうし、なんだったら重三郎を言いくるめて反省をうながせるぐらい考えていたかもしれない。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。怒りに震え、涙目でお白洲の重三郎と話す老中・松平定信(井上祐貴)(C)NHK

しかし定信は、重三郎のお行儀の悪さを舐めていた・・・というか、ずっと雲の上に住んでいたので、重三郎のようなタイプの人間と相対したのはこれが初めてだったのかもしれない。

自分の政が市井ではどんどん評判を落としていることを突きつけられた上で、そのいかがわしいとおっしゃる本は、貴方様を助けるつもりで作ったんですが、なにか? とあおってくる。なんの反論もできずに、ちょっと涙目になってる定信君に同情したほどだ。

■ 反省しない蔦重の態度に、てい&鶴屋が激怒

ただ、主人公が敵役を言いくるめてざまあみろ! みたいな爽快感をあまり覚えないのは、重三郎自身も周囲の迷惑を考えなかった自業自得感が強いからだろう。

鳥山検校(市原隼人)のように全財産没収+お江戸追放ぐらいの刑罰を食らっても全然おかしくないところ、財産半分取り上げるけど出版はつづけていいよ・・・という寛大過ぎる措置で済んだというのに、それでもなお定信に噛みつこうとするのだから、これはもうていさんにぶん殴られても誰も文句は言うまい。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。重三郎(横浜流星)の反省しない態度に怒りをぶつける妻・てい(橋本愛)(C)NHK

さらに「好色本じゃなくて教訓本だから!」と重三郎が言い張ったがために、行事を担当した伊勢屋の2人は江戸払いとされてしまった。さらに蔦屋も身上半減となったので、店で働く人や職人などにも今後影響が出るのは確実。

そんな周囲の迷惑と不安もかえりみず「借金も半分にしてくれないかな~」とかヘラヘラしてるんだから、忘八たちに階段から落とされても黙ってた鶴屋喜右衛門(風間俊介)だって、一発雷を落とすはずだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。重三郎に説教をする地本問屋の主人・鶴屋(風間俊介)(C)NHK

定信の出版統制を、本屋仲間と一丸となって免れたことで、反権力に凝り固まるという闇落ちから脱出したと思われた重三郎だったけど、周囲の人たちの気持ちを顧みなくなった欠点は、どうやらまだ健在のようである。

妻を亡くしたばかりの喜多川歌麿(染谷将太)が、重三郎から距離を置こうとしたのも、自分の気持ちばかりを押し付けようとしたがため。ここから大きく巻き返すには、相手の気持ちを敏感にキャッチして懐にスルリと入り込んだ、本来の重三郎に戻る必要があるだろう。

■ 自分の考えばかり…蔦重と松平定信が重なる

そしてこの、周囲の人の気持ちを考えないという重三郎の状況は、「自分の信じる所をなし得ねばならない」というのが強迫観念となっている松平定信とも重なる。

厳しい倹約と風紀取締が、世の中を良くすると信じて疑わず、周囲の意見も聞きはするけど取り入れることはなかったその政のひずみが、今週ついに「葵小僧」という最悪の形で露呈した。この「葵小僧」は実在の盗賊で、長谷川平蔵に捕縛されたあと、わずか10日で処刑されている。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。強盗「葵小僧」を捕獲する火付盗賊改方・長谷川平蔵(中村隼人)(C)NHK

倹約と風紀取締ゆえに働き口を失ったうえに、ギャンブルなどのウサを晴らす場所もない。そうなると、いっときの闇バイト問題よろしく、犯罪で金銭を得つつ快楽も満たす連中が増えてもおかしくはないだろう。

さらに江戸にたむろする元農民たちを農村に帰すために、「帰農令」というUターン補助金の先駆け的な制度を作ったものの、発令から1年で利用したのはたったの4人。思ったより帰ってなかった。なぜここまで、定信の政は空振りの連続となってしまったのか?

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第39回より。老中・松平定信を諫める老中・本多忠籌(矢島健一)(C)NHK

それは政策の中身がどうこうという以前に、重三郎同様自分の信念を他人に押し付け、周りは自分の思惑通りに動くだろうという甘い見通しで、政を行ってしまったせいだ・・・と『べらぼう』は推測している模様。

確かに一連の政策は、周囲の声を取り入れながらゆっくりと行い、なおかつ少し規制をゆるめるなどすれば、もう少し社会は付いて行けたのかもしれない。老中・本多忠籌(矢島健一)の「人は正しく生きたいのではない。楽しく生きたいのです」は実に名言だが、定信の心にどこまで響いたのだろうか。

■ 合わせ鏡のような2人、対照的な末路へ

松平定信と蔦屋重三郎という、完全に対立関係にあるとしか思えない者同士が、実は同じような性格と人間関係によって、ほぼ同時期にドツボにはまった。この2人を合わせ鏡のような関係にして、人が改革を推し進めるときになにが必要なのか? を考えさせるとは、なんとも巧みな構成だ。

そしてこのあと、重三郎が新しい道を見つけて飛躍する一方、定信は数年後に失脚するという対照的な末路をたどることを考えると、重三郎が次回以降見つけ出したものが、その答の鍵を握ることになるのだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第40回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第40回より。重三郎に頭を下げられる絵師・喜多川歌麿(写真左、染谷将太)(C)NHK

それにしても、定信が老中なんて地位になく、大田南畝(桐谷健太)や、ファンだった恋川春町(岡山天音)ぐらいの身分で、重三郎と出会っていたらどうなっていただろうか・・・と想像する。

文学オタクで絵もなかなか行ける上に、その堅物な性格を重三郎におもしろがられて、うまく発想を引き出してもらえば、戯作者として良い線に行けたかもしれない。実際後年、定信は黄表紙めいたものを書いていたという事実もある。

本当に人の運命とはままならないものだけど、次回予告で気になるのが、一橋治済(生田斗真)が「葵小僧」が使っていた葵御紋の提灯を手にしていたこと。もしかして定信を追い詰めるために、この件を仕組んだんじゃないか・・・という怖い考えが浮かんでしまう。

この人も中途半端に権力の頂点に近い地位に生まれてしまったがために、悪どい野望に囚われる人でなしになっちゃったんだなあと考えると、本当に運命とはときに残酷なものである。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月19日の第40回「尽きせぬは欲の泉」では、重三郎があるアイディアの実現のために歌麿に会いに行くところが描かれるとともに、のちの曲亭馬琴(津田健次郎)と葛飾北斎(くっきー!)が初登場を果たす。

文/吉永美和子

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