闇堕ちバイオレンス蔦重に、北尾政演が絶縁宣言【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第37回より。蔦屋では書かないと宣言する戯作者・北尾政演(古川雄大)(C)NHK
横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。9月28日の第37回「地獄に京伝」では、黄表紙の世界を守ろうとする重三郎の考えが、どんどん狭量な方向に。それをいさめるおていさんや、本当におもしろい黄表紙を生み出すために逆らう政演に同情する声が集まった。
■ 黄表紙の未来に暗雲が…第37回あらすじ
恋川春町(岡山天音)の死をきっかけに、多くの武士の戯作者が筆を置き、黄表紙自体の将来が地本問屋の間で懸念される。重三郎は町方出身の北尾政演(山東京伝/古川雄大)に、松平定信(井上祐貴)に一矢報いる新作を期待するが、重三郎の妻・てい(橋本愛)は「旦那さまは市井の一本屋に過ぎません。己を高く見積もり過ぎではないでしょうか!」と制止し、春町も皆が咎められてまで本を作ることは望んでないと諫言する。

政演は、草花をありのままに描いた喜多川歌麿(染谷将太)の絵に影響を受け、吉原の女郎たちの姿をその場にいるかのように書いた『傾城買四十八手』を執筆。その一方別の本屋で、定信の思想を推し進める内容の『心学早染草』を書いていた。それに怒った重三郎に対して、政演は定信を担ぐ担がないより、面白い作品を書くことの方が大事と訴えるが、聞く耳を持たない重三郎に、もう蔦屋では書かないと宣言してしまう。
■ 主人公が闇落ち…北尾政演に圧をかける蔦重
為政者にケンカを売る本をプロデュースし、そのせいで作家が自殺した・・・こんなつらい状況に立った場合、しばらくは活動を控えたり、穏便な方向に転換しようと思うところだろうが、それは凡人の発想なのかもしれない。しかも重三郎は「やられたらやり返せ、ていうか倍返しだ」気質の吉原育ち。この第37回では重三郎が、楽しいことよりも「ふんどしに抗うこと」の方に目的が移って、周囲に圧をかけていくという「主人公闇落ち」の回となった。

朋誠堂喜三二(尾美としのり)や大田南畝(桐谷健太)など、武士の顔を持っていた人気戯作者たちが一斉に手を引いて、黄表紙界は一気に人手不足となってしまった。そこで重三郎がプレッシャーを掛けたのが、町方の北尾政演。とはいえ彼も、ドラマの中で語っていた通り、やはり政を風刺した『白黒水鏡』が絶版となり、挿絵を担当した政演も巻き込まれ事故のような形で罰金を取られてしまっていた。そんな背景があるから、もう一度政に逆らう話をリクエストされても、腰が引けるのは当然だろう。
SNSでも、政演をけしかける重三郎に対して「京伝先生への圧のかけ方がさすが親っさんたち仕込みの蔦重よ」「怯える作家を脅して書かせる悪辣な主人公だ」「その期待/プレッシャーのかけ方は、悪手だよ京伝先生には」「春町センセの死に責任や悲しみ等は感じつつ、このまま黄表紙を下火させてなるものかと、手元に残った政演には気の毒なくらい圧が強い蔦重。ブラック企業の上司に見えるんだよなぁ」と諌める声が多数。
■ ていの必殺技「眼鏡外し」視聴者の心を代弁
そんな視聴者の心を代弁するかのように、おていさんがついに言いたいことを言うターンに! メガネを外した瞬間に、歌麿や政演が実況をはじめたのはおかしかったが、おていさんは「本屋風情に世界を変えるなんてできねえんだから目を覚ませ!!」と、真っ向からド正論をぶつけてきた。確かに今の重三郎を止められるのは、ある意味彼に使われる立場である作家・絵師ではなく、付け焼き刃ではない知の宝庫であり、日本橋での商売の先輩でもあるおていさんしかいなかった。

この熱い夫婦ゲンカには「出た! ていさんの必殺技! 眼鏡外し!!」「おていさんは脳裏にきちんとフローチャートがあるので、一度取り返しのつかない事をやってしまったと思ったら繰り返さないのだ」「よくある『一市民なのに天下国家を語る勘違い野郎』と蔦屋重三郎に正面から意見する。まさに良妻」「そういうことよ。同じ方向向いてるからこそぶつかり合うんだよ!」と、おていさんを応援しつつ、重三郎に冷静さを求めるコメントが相次いだ。
■ 吉原仕込みの「バイオレンス蔦重」が降臨
そこで政演が折衷案という感じで出してきたのが、政の風刺とは方向を変えた、吉原の女郎と遊客の実態を描いたドキュメンタリー的な一冊『傾城買四十八手』だった。吉原のことをよく知らない手代・みの吉(中川翼)だけでなく、前旦那が遊郭遊びに狂い、吉原に恨みを持っているていすらも「この女郎さんを応援したい」と語るほど、中身の濃い一冊となった。重三郎のプレッシャーが、思わぬ方向に転がった瞬間だった。

しかし政演はほかの板元から「心学」という定信好みの教えを、「善玉」「悪玉」というユーモラスなキャラクターを使って、わかりやすく解説した『心学早染草』を出版。登場人物がなにか大きな迷いを見せる時に、頭のなかで天使と悪魔がささやきかける・・・という描写はいろんなジャンルで見るが、まさにあの表現の元祖なわけで。本当にこの頃の北尾政演こと山東京伝、ちょっと神がかっていたことがうかがえる。
でも重三郎は、この本のおもしろさは認めつつも「ふんどしを貶める本以外は認めねえ!」と、完全に義父・駿河屋市右衛門(高橋克実)が乗り移ったような口調と暴力で政演を追い詰める。ほんの少し前まで、作家のやる気を高めるためにあの手この手を使い、板元も戯作者も読者も全員楽しい気持ちになる本作りを楽しんでいた重三郎は、どこに行ってしまったのだろう?

この重三郎の駄目な変化にSNSでは「うわぁーー蔦重! 親父さまのようだ!!!!」「面白いことを大切にしてきた蔦重がふんどしに抗うことに囚われてる」「目的と手段が逆転してるぞ蔦重」「春町先生を亡くして少し視野も狭く世の中を知る嗅覚さえも衰え、意固地になっていないかい?」「大河においても突出して第1話から精神性が完成していた主人公だったが・・・その完成された精神性が徐々に憎悪と敵意で歪んでいくの嬉しくなさすぎる!!」という悲鳴のような声が上がっていた。
■ 黄表紙プロデュース力の限界…この先は?
だが政演が『心学早染草』を出したのは重三郎への反抗ではなく、単に「俺ぁそれを書きてえです!」という題材を見つけ出したという、作家としての純粋な思いからだっただろう。そして春町が命を賭して望んだのは、誰もが自由に戯けることができる世の中が来てほしい・・・という思いであり、そのためには思想にとらわれ過ぎず、おもしろいと思った本を作りつづけるべきだというのが、同じ戯作者として政演が受け取ったメッセージだったのだ。

政演の「面白えことこそ、黄表紙にはいっち大事」という必死の反論に、SNSも「お上が理屈や真面目を押し付けてくる? だったら理屈も真面目もを面白く書いてやるよ! という山東京伝、これが戯作者の強かさよ」「政演なりの報い方なんだよ! もうちょい考えてよ蔦重!!」「耕書堂では越中守担ぎになり得る話は書けないということだもんね。政演の決断が普通だと思う」という、重三郎の変化を嘆く言葉があふれた。
エンターテインメントで多くの民衆を楽しませてきた人が、一度特定の政治や宗教などのイデオロギーにとらわれると、人々を扇動するその力が暴走して、えらいことになってしまうという例は、古今東西を問わずよくある。重三郎もまた「反体制」にこだわり過ぎて、アンテナを急速にしぼませてしまった。かつてこのコラムで「通常の重三郎なら、この機会に楽しい節約術の本とか作りそうなのに」と語ったことがあるが、この『心学早染草』の一件で、重三郎の黄表紙プロデュース力の限界が見えてしまった気がした。

重三郎はこのあと、浮世絵で大成功するという未来が待っているのだけど、ここからどうやって心境を切り替えていくのだろうか? 次回予告に映っていた、歌麿の妻・きよ(藤間爽子)が病魔に襲われるのが、悲しいけれどその大きなきっかけになるのだろうか。ドラマは残り2カ月とちょっとだけど、ここから重三郎がどのような明るい意趣返しをすることができるのか。それに期待して、今はバイオレンス重三郎に少し目をつぶっておこう。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。10月5日の第38回「地本問屋仲間事之始」では、重三郎と政演の間を鶴屋喜右衛門(風間俊介)がとりなしてくれる一方、松平定信がついに出版統制をおこなう姿が描かれる。
文/吉永美和子
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