『宝島』妻夫木聡、役に没頭「自分がどうなっていたのか分からない」

2時間前

映画『宝島』で刑事のグスクを演じた妻夫木聡

(写真3枚)

第160回直木賞を受賞した真藤順丈の同名小説を映画化した『宝島』(9月19日公開)。その合同インタビューが大阪市内で開かれ、主演の妻夫木聡が出席。熱演の裏側について語ってくれた。

■ 舞台となったコザへの想い「運命的なものを感じた」

戦後沖縄を舞台とする同作で妻夫木が演じたのは、刑事のグスク。彼はかつて、米軍基地から物資を奪って住民に分け与える若者たち「戦果アギヤー」の一員として活動。しかし大勝負となる基地襲撃時、町の英雄的存在であるオン(永山瑛太)が消息を絶ったことから、その行方を探すために刑事に。そして、米兵を取り締まりながらオンを探す日々を送る。

物語の舞台となったコザは、妻夫木の主演映画『涙そうそう』(2006年)の撮影地でもある。妻夫木は「『涙そうそう』のときからずっと仲良くしている親友もいますし、『宝島』はあらためて沖縄と向き合えるきっかけになりました。運命的なものを感じました。なかなか同じ町を舞台にした映画に出演できる機会はないので」とコザへの思い入れを口にする。

■ 怒り、泣き、笑い…自身の演技に「どういう風だったのか分からない」

グスクは、米軍絡みのトラブルはすべて握りつぶされる不都合な現実を前に、刑事でありながら手が出せないことに葛藤を抱える。そして「オンちゃんがいたらどうしていただろう」と想いを馳せる。ギリギリの精神状態でなんとか生きている彼だが、そのたまりにたまった怒りが噴き上がるのが終盤のコザ暴動(1970年)の場面だ。

米兵の運転車両が沖縄県民をはねてケガを負わせたことを発端とし、住人たちが米軍車両を焼き払うなどの騒動へと発展。民衆の感情の爆発に重なるように、グスクも「我慢にも限度があんどー」と怒りをにじませる。そのときの妻夫木は、怒りと共に泣き笑いにも見える表情の演技を見せる。我慢の限界を迎えた人間とはまさにこういうことなのかもしれない、と思わせる説得力ある演技だ。

妻夫木からは「あの場面の撮影で自分がどういう風だったのか、言葉にするのは難しいですね。演技のプランがあってああしたわけではないです。『出ちゃった』としか言いようがないんですよね」と悩ましさがうかがえる。

映画『宝島』左から、大友啓史監督、妻夫木聡、窪田正孝

「グスクという男はバランサーだと思うんです。刑事として、当時の沖縄の人たちと米兵の間に立っていましたから。平和に向けてどういう形が取れるのか、その紙一重のところで動いている人間。いろんな我慢をしながら前へ歩いているけど、『そんな俺でも我慢の限界があるぞ』と。ずっと我慢をしている自分=沖縄という意味が感じられ、そのすべての想いがこもっています。僕自身もその痛みを受けながら表現しました」。

それでも妻夫木は最後にあらためて「あの時の感情を一言で表すことはできないんですよね。たしかにお芝居という意味では興味深いものになった気がします。でも、分からない。自分自身でもどうなっていたのか…」と、「分からない」という言葉を繰り返した。それだけ妻夫木はグスクという役に没頭していたと言えるだろう。

映画『宝島』は9月19日より全国公開。

取材・文/田辺ユウキ 写真/バンリ

映画『宝島』

2025年9月19日(金)公開
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
監督:大友啓史
出演:妻夫木聡 広瀬すず 窪田正孝 永山瑛太
Ⓒ真藤順丈/講談社 Ⓒ2025「宝島」製作委員会

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