「演劇じゃない!」バッシング受けた過去も…「劇団☆新感線」が45年間貫いたスタイル

左から「劇団☆新感線」の看板俳優・古田新太、主幸・いのうえひでのり (C)西木義和
1980年、一度きりの公演で解散するはずだった学生劇団は、あれよあれよと日本有数の人気劇団となった──。まさに関西小劇場界が生んだ奇跡といえるのが、「劇団☆新感線」だ。今では宝塚歌劇団や歌舞伎界でも、その作品を上演されるほどの劇団にのし上がった。彼らはその奇跡を、どのようにしてつかんだのだろうか?
■ 「否定的な人が出る作品ほど、すごく肯定的な人が生まれる」

新感線の出発点は、個性の強い人たちがコンプライアンスギリギリの会話をぶつけ合うことで、人間の計り知れなさを舞台上で体現させ、70~80年代に熱狂的な支持を集めた劇作家・演出家のつかこうへいだ。
『熱海殺人事件』『蒲田行進曲』などをコピーした舞台で注目を集め、安定した動員を記録した新感線だが、メタルキッズでもあったいのうえが、つか芝居にヘヴィメタルの音楽を合わせようとしたことが、オリジナルに転向する1つのきっかけだったという。劇団主宰&演出のいのうえひでのりに、当時の話を聞いた。
「つかさんも芝居で歌謡曲をバーン! と大音響で流していて、それがすごく興奮したので、一回メタルを流してみたら、つかさんの台詞とは合わなかった(笑)。だったら、音楽に合った芝居を作ったらいいじゃん、って話になったんです。もともと(座付き作家の)中島かずきさんとかと、オリジナルの作品をやったりしてたんで、つかさんではなく、自分が好きなものばかりを集めた芝居をやっていこう! ということになりました」。

そうして1984年より本格的に、現在とほぼ変わらない路線──ヘヴィメタルの音楽とビジュアルを用いて、名作のオマージュなども入れながら、エンタメ色の強い活劇を見せるスタイルに。しかし客はガバっと減り、評論家筋からも「これは演劇ではない」とバッシングを受けたりしたこともあったという。しかしそういった人たちに媚びず、自分たちの「楽しい」を信じてひたすら貫いたのが、今思えば正解ルートとなったのだ。
「お客さんが前より減ったとしても、劇場に来る人はみんな笑ってくれる。いつも楽しんでくれる人がいて、自分たちも楽しかったから『やめちまえ!』みたいな感じにはならなかったんでしょうね。それとおもしろいのは…今現在もそうなんですけど、すごく否定的な人が出る作品ほど、すごく肯定的な人が生まれるんです。離れる人がいても、熱烈な新しいお客さんは必ず出てきているという感じはあります」。

さらに、デタラメな笑いをノンストップで展開させるいのうえと、少年漫画的なアクション要素で胸を熱くする中島という2大作家の作風を使い分けることで、純粋にパーッとした娯楽を求める観客、物語から感動を得たいと思う観客の両方を取り込むことに成功。その評判は全国までとどろき、アイドルとのコラボなどの声もかかるようになり、新感線の人気と注目度はどんどん加速していく。
■ 看板俳優・古田新太の存在「若い俳優のケアもする」

小劇場界で高く評価されて、商業演劇の世界へと進出したものの、さまざまな理由で本領を発揮できずにフェイドアウトしたり、あるいは一般受けしそうな方向に切り替えて活動を続ける劇作家・演出家は少なくない。しかしいのうえは、あくまでも新感線のテイストをキープした舞台を作りつづけ、そこで出会った新しい観客を劇団公演に引き込むという好循環を、見事に成功させた一人だ。
「やっぱり僕たちはクセが強かったから、誰かに違うことを提案されても『やっぱりそうはできないなあ』って。あとは初めての役者さんが、自分が作った世界にいても、下手に見えないようにしたいというのがありました。そこはね、つかさんの影響です。つかさんはマンツーマンで役者さんと付き合うみたいなところがあったけど、僕も『まだちょっとつたないな』という人が、自分の世界にハマるようになるまで、時間をかけて付き合ってました」。
その結果、劇団の本公演や、あるいは新感線のテイストが強いプロデュース公演に出た若手俳優が、新感線の色に染まって隠れた才能を発揮するケースが頻発。たとえば、生田斗真は三枚目の演技を開花させて大きな武器とし、早乙女太一&友貴兄弟はアクションに開眼して鍛錬を重ねたことで、若手随一といえる殺陣の名手となった。メインとなる有名俳優の個性に引きずられるのではなく、むしろ自分たちの色に染めてしまういのうえの剛腕が、新感線が「新感線」のままで演劇界を席巻できた大きな理由だろう。
そしていのうえの世界を体現する大きな力となったのが、見事に芸達者ぞろいな劇団員たちの存在だ。かわいらしさと思い切りの良さが飛び抜けた羽野晶紀、飛び道具的な演技で確実に笑いを取る橋本じゅん、憎めない悪女役がこれほど似合う女優もいない高田聖子…なかでも新感線の屋台骨と言えるのが、下劣なギャグもニヒルな二枚目も自由自在な看板俳優・古田新太だろう。彼の存在もまた、新しい才能とコラボをする上で欠かせないものだったようだ。

「彼はああ見えて、すごく気遣いだったりするんですよ。若い俳優のケアもちゃんとしてくれるし、先輩・兄貴のような存在。だから古田がいる新感線と、古田がいない新感線って、ニュアンスが違うんですよね」と、彼が舞台の上でも下でも新感線を支えてきた事実を称えながら、こんな苦言も。
「やっぱ古田が出ると、良くも悪くもみんなそっちを観ちゃうんですよ。舞台上でなんか変なことをチョコチョコやるから『いや、今こっち側で芝居してますけど…』みたいなことが起こっちゃう。邪魔なんだよ! って(笑)。それぐらい存在感が大きいから、最近は古田をどう見せればいいのかを考えます。古田を先に(作品のなかに)置いてみて、そこから芝居を作る、というね」。
■ 「大きな転機の一つだった」1997年の再演とは

ギャグ満載のネタ芝居から生演奏の迫力を生かした音楽劇まで、さまざまな路線を生み出してきた新感線だが、やはり一番人気なのは、日本の歴史や神話をベースにした中島かずきの壮大な脚本を、いのうえの演出によって最大限までスケールを増幅して舞台化する「いのうえ歌舞伎」。そのなかでも、織田信長の影武者だった男たちの争いを痛快に描いた『髑髏城の七人』の1997年の再演は「大きな転機の一つだった」といのうえは言う。

「あれを観た松本幸四郎(当時は七代目市川染五郎)君が『これが今の歌舞伎だ』と興奮して言ったんです。歌舞伎って高尚で敷居が高いと思われてるけど、もともとは大衆を喜ばせるためにやっていたんだと。それがきっかけで(2000年に)『阿修羅城の瞳』という、劇団では封印していた作品を幸四郎君主演でやることになったんです」。
『阿修羅城の瞳』は、のちに再演や映画化もされるほど大ヒット。さらに幸四郎とは『アテルイ』『朧の森に棲む鬼』という新作でもコラボを果たし、新感線の名を歌舞伎ファンに広く知らしめただけでなく、現在の新作歌舞伎ブームに至る潮流を作り出した。小劇場の若者たちが自分の好きなものだけを集めて作った「歌舞伎っぽい世界」が、本家本元の歌舞伎の流れを変えたわけだから、新感線のすごさはこれだけでも伝わるだろう。
さらに今年に入って、宝塚歌劇団星組までもが『阿修羅城の瞳』を上演し、新感線ファンも宝塚ファンも驚かせた。「小柳(奈穂子/宝塚版演出)さんは『オレンジルーム』(注:現在のHEP FIVEにあった小劇場)時代から僕らの芝居を観てたそうで、すごく新感線に寄せた演出をしてくれました。まさかあんな小さな小屋で作った芝居が、宝塚大劇場でかかるなんて思わないですからね。それがやっぱり、45周年ということだと思います」。

まさに今の日本の舞台芸術のジャンルを、すべて横断したかのような活躍ぶりを見せている新感線。それでもまだ、やり残していることはあるのだろうか?「もっといろんな役者さんと出会うことで、また新たな可能性とか希望は出てくると思う。やっぱり役者さんが、僕らを刺激してくれるんです」と、いのうえらしい答えが返ってきた。
そして今回上演する『爆烈忠臣蔵』は、最近はなかなかそろわなかった新感線のメンバーが、久々に全員集合。中島の新作に挑んでいくが「今回もそうだけど、かずきさんの本って若いから、だんだん(劇団員は)しんどくなる(笑)。だからかずきさんの本はどんどん若い人にシフトして、劇団員には年相応のお芝居を用意したい。最近は商業演劇でも、きっちり人間を描いた時代劇って、あんまりやらないじゃないですか? 古田はそういうの嫌がるけど(笑)、世話物をやってみたいです。でもそこに活劇があれば、なにをやっても新感線ですからね」。


劇団☆新感線の最新作『爆烈忠臣蔵〜桜吹雪THUNDERSTRUCK』は、劇団員のほかに、小池栄子、早乙女太一、向井理が出演。天保の改革期の江戸を舞台に、『忠臣蔵』を上演しようとする「闇歌舞伎」の人々と、権力者との攻防を描いていく。松本公演を経て、大阪は10月9日〜23日に「フェスティバルホール」(大阪市北区)にて。チケットはS席1万6800円、A席1万2800円、22歳以下2200円で、9月7日からチケット発売開始。大阪のあとは、東京でも公演あり。

取材・文/吉永美和子 撮影/Lmaga.jp編集部(一部提供)
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