「みんな兄弟」万博バルト館、500人が「人間の鎖」作り平和願う

2時間前

バルト館のマスコットキャラクター・バラビちゃんもイベントに登場し、500人のパビリオン関係者や来場者と「人間の鎖」に参加「バルトの日」(8月23日・大阪・関西万博)

(写真9枚)

『大阪・関西万博』で8月23日、バルト三国(ラトビア、リトアニア、エストニア)にとって特別な意味がある「バルトの日」が開催された。

1989年の同日は、1939年から続いたソビエト連邦の占領(1941-44はナチスドイツが占領)から独立を求め、675キロにわたり、約200万人が手を繋いだ、平和的な政治デモ「The Baltic Way」(バルトの道)がつくられた日。万博でも、当時と同じように「人間の鎖」を再現。1989年当時、現地でデモに参加していた「バルトパビリオン」の副館長に、話を聞いた。

万博会場の「バルトパビリオン」は、ラトビアとリトアニアが共同出展(バルト三国のひとつエストニアは参加していない)。日本から見ると両国はロシアの向こう左隣りにあり、2国合わせて北海道ほどの面積。自然が多く、四季もある国だ。

「バルトの日」のパビリオン前の様子。ハーブの香りが漂うパビリオン内には、バルトに生息する約300種類の植物、結露壁にイラストや文字を描く体験ができる「KIZUNA WALL」などを展示(8月23日・大阪・関西万博)

今年5月、入り口にあった万博の公式キャラクター・ミャクミャクの人形が持ち去られたことから、代わりにと来場者らから届けられた多くのミャクミャクが集まったことも大きな話題になった「バルト館」。そのときのミャクミャクはその後、大阪の病院に入院している子どもたちに寄付され、お礼の手紙が届いていることも報告されている。

「バルトの日」(8月23日・大阪・関西万博)
「バルトの日」のエントランスディスプレイ(8月23日・大阪・関西万博)

◆ 「バルトパビリオン」から発信する、平和への願い…ウクライナへの連帯

当日は朝から、「バルトの日」プログラムが目白押し。ラトビアとリトアニアの伝統音楽のステージや、文化ワークショップなどがおこなわれた。また午後には、独立を求めた平和的デモ・人間の鎖「バルトの道」を再現する『シンボリック・ヒューマンリング』が、パビリオンで開催された。

ラトビアの民族舞踊のステージ(8月23日・大阪・関西万博)

リトアニア文化大臣のシャールナス・ビルティス氏は、「自由と独立国としての権利は絶対に譲れないものです。私たちはウクライナと共にあり、これからも常に共に歩み続けます」とスピーチ。

ラトビア文化省次官のダーツェ・ヴィルソーネ氏も、「世界が新たな課題に直面している今、私たちが団結した経験は意義深い。ウクライナにおけるロシアの戦争は容認できません。バルト諸国はそれをよく理解しています」と力強く述べた。

独立を求めた平和的デモ・人間の鎖「バルトの道」を再現する『シンボリック・ヒューマンリング』が、パビリオンで開催された(8月23日・大阪・関西万博)

両国の関係者や来場者が、国を超えて手をつなぎ、できた輪はパビリオンの外まで続いた。お互いに力強く握りしめた手を振り、ともに歌い、参加者たちは、パビリオンのコンセプトでもある「We Are One」を体感した。

◆ 1989年8月23日を思い出して涙…

戦争と占領によって、多くの犠牲者を出してきたバルト三国。そこからの解放は、国民の悲願だった。イベント終了後に、10代の頃に「バルトの道」を体験した、同パビリオン副館長のソルヴィタ・クリャヴィニャさんに当時のお話を聞いた。

「バルトの日」(8月23日・大阪・関西万博)
副館長のソルヴィタ・クリャヴィニャさん(8月23日・大阪・関西万博)

「『The Baltic Way』の日は、忘れられない日です。その日、私が立ったのは海沿いの道で、住んでいる地域や会社ごとにだいたいどこに立つかも決めてあって、バスに乗り、みんなで歌を歌いながらその場所に向かいました。みんなに希望ができたから・・・今歌っていても、泣いてしまいそう」と涙ぐむソルヴィタさん。

独立を求めた平和的デモ・人間の鎖「バルトの道」を再現する『シンボリック・ヒューマンリング』が、パビリオンで開催された。
『シンボリック・ヒューマンリング』に参加したパビリオン関係者ら(8月23日・大阪・関西万博)

「インターネットも携帯もなかった時代です。どうやってみんなが集まったのか・・・。たぶん、みんな共通の想いで燃えていたんですね。強いアイデンティティの意識、自分の言葉を話したい、自分の祭りを祝いたい。伝統も言葉も守り切ったことを肌で感じました。独立の日から、全然違う自分がいた。学校も1週間で教科書が変わり、歴史に対する教え方も変わりました。ラトビア語を守るために、時間をかけてロシア語を減らしていきました」。

来場者もステージにあがってダンス。一緒に「バルトの日」をお祝いした(8月23日・大阪・関西万博)

「たとえばウズベキスタンやアゼルバイジャンの人たちは、全然違う民族なんですけど、同じソ連だった、という思いがあります。みんな同じ経験をしたでしょ? だから、ウクライナのこともサポートして励ましています。あの日『バルトの道』をつくったとき、ラトビア人、リトアニア人、エストニア人は、みんな友だちでみんな兄弟で、本当に素晴らしかった。そして今日もまた『みんな一緒』、それを感じましたね」(ソルヴィタさん)

カーリスさん、アルトゥルさんらパビリオンスタッフと、来場者らみんなで「バルトの日」をお祝い(8月23日・大阪・関西万博)

この「バルトの日」は、「万博」は各国の文化や最新技術を知る機会であり、また、互いの国の歴史や現在の課題を知り、そして体感する場でもあると感じる1日だった。

なお、8月5日の万博「ウクライナ・ナショナルデー」には、各パビリオンが、ウクライナ国旗の青と黄色のカラーにライトアップし、連帯を表明するなど、各国がさまざまな方法で、万博から平和への願いを発信している。「ウクライナ・パビリオン」は「コモンズC」内にあり、軍事侵攻の現状を知ることができる展示となっている。

取材・文・写真/太田浩子

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