万博花火に込めた思い「当たり前じゃない」全国の花火大会が存続危機

5時間前

『大阪・関西万博』にて、「未来につなぐ、希望の花火」の打ち上げの様子(8月23日・19時19分〜)

(写真13枚)

「お~きれい!」。8月23日、『大阪・関西万博』開催中の夢洲の夜空を美しい花火が彩り、あちこちから歓声があがった。多くの来場者の目を楽しませたこの花火、実は全国各地の中止・延期となった7つの花火大会で「打ち上げ予定だった花火玉」を打ち上げたもの。全国で中止となった花火が、万博で奇跡の復活となった。

全国の花火大会の4分の1が、過去5年以内に中止または規模縮小を余儀なくされている。そんななか、日本が誇る世界最高峰の花火技術と魅力を世界に向けて発信するプロジェクト『Japan Fireworks Expo(以下JFE)』と、「キリンビール」(代表・堀口英樹)のお花見や花火など「日本の風物詩」を守る活動に、売上の一部を寄付し、未来へつなぐ取り組み「晴れ風ACTION」との協業で、今回の花火の打ち上げが実現した。

決起会で挨拶をするJFE代表理事(8月23日・大阪市内)
決起会で挨拶をするJFE代表理事・北條伸一さん(8月23日・大阪市内)

「JFE」の代表理事の北條伸一さん自ら、全国の約30の花火大会主催者に直接1件一件電話をし、今回の万博での花火の打ち上げを打診。その呼びかけに応えたのが、『相馬花火大会』(福島県)、『双葉花火』(福島県)、『大子町花火大会と灯籠流し』(茨城県)、『サザンビーチちがさき花火大会』(神奈川県)、『高石シーサイドフェスティバル』(大阪府)、『猪名川花火大会』(大阪府・兵庫県)、『秋吉台観光まつり 花火大会』(山口県)の7団体だった。

『大阪・関西万博』にて、「未来につなぐ、希望の花火」の打ち上げの様子(8月23日・19時19分〜)
『大阪・関西万博』にて、「未来につなぐ、希望の花火」の打ち上げの様子(8月23日・19時19分〜)

◆ 近年、夏の風物詩である「花火大会」が存続の危機に…その背景は?

夜の花火打ち上げの前には、「決起会」という形で『相馬花火大会』『猪名川花火大会』『秋吉台観光まつり 花火大会』の各担当者や、花火の専門家などが集まり、交流の場が設けられ、さながら「全国花火サミット」のような形に。

決起会に出席した各花火大会の運営メンバーや関係者たち(8月23日・大阪市内)

花火研究家・ハナビストの冴木一馬さんは、「中止になった花火はどうなるの?ってよく質問されますが、廃棄されるもの(導火線を切っているもの)、保存されて別で打ち上げられるもの、どちらもあります」とのこと。23日の花火では全国から集めたこのような花火玉を中心に打ち上げられた。

さらに「コロナ禍の3年、花火業界は大変でした。その間にベテランの職人が退職していき、今は受け継がれるべき技術が若手に受け継がれていない、という状態。日本の花火は世界最高峰の芸術。多くの人に花火業界を応援してもらいたい」と、業界の抱える問題を語った。

決起会に出席したハナビスト・冴木さん(8月23日・大阪市内)

「JFE」の北條さんは、「どの花火大会も安全な開催のための、ヒト、モノ、カネが圧倒的に足りていない。今後も大会を続けるための方法を、一生懸命考えている主催者が多い。今まで花火大会同士の横のつながりはあまりなかったと思うが、『これやってみてダメだった』『こうやったらうまくいった』など、情報交換の場が作れたらと思ってた」と話し、各団体のみなさんを見守った。

決起会で挨拶をする花火大会主催者代表(8月23日・大阪市内)
決起会で全国の花火大会主催者代表たちが交流(8月23日・大阪市内)

◆16万2千人が来場『猪名川花火大会』が直面する課題

参加大会のひとつ、『猪名川花火大会』を池田市と共同開催する川西市の市民環境部文化・観光・スポーツ課の上中雄介さんに詳しい話を聞いた。

「前回の来場者は16万2千人。毎年1万人ずつ増えている。より多くの人に楽しんで欲しい一方、年々警備費、設営費がかさんでおり、以前の3倍ほどに。1度の開催に最低1億円はかかる。戦後すぐにスタートした78回続く伝統ある花火大会を次世代に残すために、隔年開催という苦渋の決断となった」。

決起会に出席した猪名川花火大会の運営メンバー(8月23日・大阪市内)
決起会に出席した『猪名川花火大会』の川西市の運営メンバー(8月23日・大阪市内)

費用が3倍ということは、3年に一度の開催と言う選択肢を尋ねると、「花火大会はこれまであって当たり前、無料の娯楽の最高峰だった。市民の期待も大きく、絶対失敗は許されない。3年経つと、役所は人員異動の影響を受けてしまう。運営ノウハウを受け継ぐためにも隔年がベストと判断した。兵庫と大阪をまたぐため、兵庫県警、大阪府警双方との調整が必要だったり、県境をまたぐ2市が共同で開催するという、わたしたちの大会ならでは特殊性もあり、ノウハウの継承は不可欠」ということ。

「今年は残念ながら猪名川で花火を打ち上げることができなかったが、万博という場で花火を打ち上げられることになったのは、純粋に嬉しい」と語った。

花火玉が決起会でディスプレイされた(8月23日・大阪市内)
花火玉が決起会でディスプレイされた(8月23日・大阪市内)

「晴れ風ACTION」を通じ全国の花火大会を支援する「キリンビール」 晴れ風アシスタントブランドマネージャー・村井志帆さんは、「各花火大会が存続の危機にあるということが、まだ一般のみなさんには認識されていないと感じる。今回の花火打ち上げが、各花火大会を応援したいと思うきっかけになれば」と話した。

決起会に出席したキリンビール(8月23日・大阪市内)
決起会に出席した「キリンビール」の村井志帆さん(8月23日・大阪市内)

夏の風物詩である全国の「花火大会」は、このように予算の問題、花火職人および運営の担い手の不足、さらに台風など気象の問題など、多く課題を抱えている。存続の危機にあるなか、各主催者は協賛を募る、有料観覧席を設定するなど工夫をしていて、個人や団体で協力できることもあるので、気になる人は調べてみよう。

今回の万博では今後『夏休みEXPOミニ花火』として8月24日~31日の日程で毎日花火を打ち上げ。また、『Japan Fireworks Expo』は9月27日、10月8日の開催を予定している。こちらも寄付、協賛金を募っているので、詳細は公式サイトで確認を。

取材・文・写真/Lmaga.jp編集部

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