キングメーカー・一橋治済、真の目的は「復讐」なのか?【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第31回より。天を見上げながらほくそ笑む一橋治済(生田斗真)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。8月17日の第31回「我が名は天」では、一橋治済の毒牙がついに将軍・徳川家治に向かうことに。命が尽きる瞬間まで、田沼意次を守ろうとした家治の行動は、治済になにをもたらすのかを考えてみた。
■ 毒を盛られた将軍・徳川家治…第31回あらすじ
老中・田沼意次(渡辺謙)が利根川の洪水の対応に追われるなか、将軍・徳川家治(眞島秀和)は、側室・知保の方(高梨臨)が作った「醍醐」を食べてから、急激に体調を崩した。家治は意次に、一橋治済(生田斗真)に毒を盛られたと察知。なぜ治済がこのようなことをするのかと問う意次に、人の命運を操り、将軍の座を決する「天」になることが、将軍家の控えに生まれついた治済の復讐だろう・・・と家治は語った。

家治が重体になったのは、意次が医者を変えたせいだと噂が立つ。意次は、老中・松平康福(相島一之)に身を引くようにうながされ、老中職を返上した。そして臨終を間近にした家治は、将軍家後継者となった治済の息子・家斉(長尾翼)に「まとうど(正直)な者を重用せよ」と遺言し、そばにいた治済に「天は、天の名をかたるおごりを許さぬ。これからは余も天の一部となる。余が見ておることをゆめゆめ忘れるな」と迫り、息絶えたのだった。
■ 将軍を暗殺…一橋治済の「真の目的」は?
徳川家治の死は、推察される病名や死に至るまでの状況が、あらゆることが記録される将軍にしては曖昧な部分が多いため、いろいろなミステリーがささやかれている。そして田沼意次が新しい医師を派遣してから病状が悪化したために、実際に「田沼が毒殺した」という噂も流れていたそう。しかし『べらぼう』を観てきた人ならわかる通り、田沼の天下は家治の存在なくして成り立たないので、暗殺をしたところでメリットはなさそうなのだが・・・。

そこで今回採用されたのが、一橋治済暗殺説だ。治済の息子で将軍家の跡取りとなった家斉の乳母・大崎(映美くらら)は、以前知保の仮病のために薬を調合したように、毒物の扱いに長けた存在。今回も知保が、家治が食事を勧められて断りにくい存在ということを利用し、毒見と称していったん取り下げた醍醐(牛乳を煮詰めたチーズのようなもの)に、まんまと毒を仕込んだ・・・と推察される。

将軍後継の資格を持つ人物と、その疑問を探ろうとした人物の相次ぐ死に、すべて一橋治済がなんらかの形で関わっていると、以前から疑っていた意次と家治。家治当人が、一橋に近い筋から毒を盛られたことで、疑念は確信に変わった。しかしなぜ治済が、周囲の人間を毒殺してまで、権力に関わろうとするのか? そこで家治が出した「天」に成りたがっているという理由は、実に興味深く、そして的を射る指摘だったと思う。

このコラムでは何度か記したが、一橋家を含めた「御三卿」は、徳川吉宗が自分の血統が確実に将軍家を継ぐことができるようにと、スペアを増やす目的だけで作られた家だった。御三家が自分たちが統治する土地を持ち、権勢を振るうことができるのに対して、御三卿は幕府から生活費をもらうだけで特になにもすることがない。人によっては気楽で良い生活と思えるかもしれないが、少しでも権力欲を持つ人間にとっては、檻のなかのような人生ではないか。
そこで治済は「天」が人の命運を決めるがごとく、自分が「天」となって人々の寿命を操り、自分の息子に「次期将軍」という運命を与えた。さらに祖父・吉宗が「大御所」として息子・家重の代わりに政を行ったように、自分も息子の後ろで実権を握る・・・というシナリオを、いつの頃からか描いたのだろう。しかしそれは単純な政への野望ではなく、自分をスペア扱いして軽視した人間たち・・・特に御三卿を「幕府の財政の無駄遣い」と明言した意次への復讐だったと言われたら、いろいろと納得がいく。
■ 最期まで田沼を守る家治、治済への影響は?
こうして見事にキングメーカーとなった治済だったが、残された命の火を必死で燃やして、彼の企みにすべて気づいていると楔を打ち込んだのが家治だった。すべての企みをバレないようにやってのけたと思っている治済に「まるっとお見通しだ!」と言わんばかりの言葉を、妄言の振りをしてしっかりと投げかけた。この家治の行動は、死を前にした破れかぶれというよりは、ここに来てもなお意次を守るためのものだったと思われる。

後継の家斉には、意次のような者・・・というか、遠回しで「意次を重用せよ」としっかり遺言した上で、死んでもなお天から治済を見ていると釘を差した。そして治済は表面的にはトボけていたが、本物の「天」の者となった家治が、常に自分を見張っているという警告は、多少なりとも意次の取扱を見直すための一石となったはずだ。かつて自分の血よりも、意次の知恵や考えを幕府に残す方を選んだ理想過ぎる上司・家治らしい最期だった。

そして治済を見ていると、シェイクスピアの『リチャード三世』を思い出す人は、筆者以外にもいるんじゃないかと思う。周囲の人間を口八丁で裏から操り、念願のイングランド王になれたものの、誰にも味方されずに独り滅ぼされるリチャード三世。彼はただ「王位」につくのだけが目的であり、王になったとたん目標を見失い、それゆえにあっさりと王位を追われた。意次と違い、政治に志を持っている気配を感じさせない治済も、いざ政に関わったときに、それと同じような虚しさを感じるのではないか。
史実では治済はのうのうと生き延びているので、その方向からなんとか足元をすくわれるような事態が起きることを、期待・・・というよりも積極的に呪詛したくなる(笑)。そして常に感情がむき出しの主人公・重三郎の対比となるよう、できるだけ感情を押し殺すことを心がけていたという家治役の眞島秀和。インタビューで「蔦重たちのやり取りに憧れていた」と明かしていたので、ぜひ次の大河に出るときは、感情を大っぴらにできるような役で帰還してほしい。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。8月24日の第32回「新之助の義」では、徳川家斉が第十一代将軍宣下を受ける一方で、小田新之助(井之脇海)が変わらずつづく田沼意次の政に反発して、打ちこわしに立ち上がるところが描かれる。
文/吉永美和子
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