妖怪絵師に導かれて…歌麿が絵師の務めに覚醒【べらぼう】

2時間前

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。絵師・鳥山石燕(写真右、片岡鶴太郎)と再会した絵師・喜多川歌麿(写真左、染谷将太)(C)NHK

(写真7枚)

横浜流星主演で、数多くの浮世絵や小説を世に送り出したメディア王・蔦屋重三郎の、波乱万丈の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。8月10日の第30回「人まね歌麿」では、喜多川歌麿が自分の作風を模索するなかで、壮絶なトラウマと直面することに。それを救い出したのが、重三郎ではなく意外な人物だったことに、SNSでは大きな感心の声が上がっていた。

■ 絵に追い詰められる歌麿…第30回あらすじ

喜多川歌麿(染谷将太)が周囲から「人まね歌麿」と呼ばれるようになっているのを知り、重三郎はかねてからの考え通り、歌麿にオリジナルの絵を描かせて売り出す計画を立てる。歌麿は自由度の高い枕絵に挑むが、自分が殺した母親(向里祐香)やその愛人(高木勝也)の幻覚に阻まれて苦悩する。重三郎の妻・てい(橋本愛)は苦行のようだと心配するが、重三郎はなにかを生み出すときに苦労するのは当たり前だと言い聞かせた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。絵師・喜多川歌麿をなだめる重三郎(横浜流星)(C)NHK

追い詰められたあげく、ついに暴力沙汰を起こした歌麿の元に、彼が幼い頃に絵の世界に誘った絵師・鳥山石燕(片岡鶴太郎)が来訪。石燕は歌麿が描いた絵を見て、妖(あやかし)が塗り込められていると告げた上で、その妖が見えるのであれば、それを絵にして現すのが絵師に生まれついた者の務めだと諭す。歌麿は石燕の弟子となることを決め、重三郎は歌麿の才能を咲かせるには、自分は素人だったと反省するのだった。

■ 「人まね歌麿」の売り込み時、ついに到来!

さまざまな絵師の作風を真似た絵を描かせて、世間の注目を集めてから、新進気鋭の絵師として売り出す・・・これは第4回のときに、喜多川歌麿(当時唐丸)の才能を見出した重三郎が編み出した、歌麿の売り込み計画だ。それが時を経て、重三郎がこれを実践する前から、北尾重政(橋本淳)らが「人まね歌麿」と称賛するようになった。これはもう、商売人・重三郎にとっては「計 画 通 り」というところだろう。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。枕絵の参考資料を見る重三郎(写真左、横浜流星)と絵師・喜多川歌麿(写真右、染谷将太)(C)NHK

そこで重三郎が歌麿に提案した題材は、なんと「枕絵」。「春画」とも呼ばれているこの題材は、いわゆるエロ本と思っていただいたらいい。もちろんお上からは禁じられているので、お店の常連さんや特別にお金を出した人などに、こっそり販売されていた。ただ現在でも、ポルノ映画やBLなどエロティックな題材を扱うことで、作家性を開花させた表現者は数多いので、それと同じことは江戸時代にもあったのだろう。

これにはSNSも「春画のターン来たーー!!」「名を上げるためにはエロ同人だ!!」「浮世絵の話で避けて通れないけど、ここでくるんだ」などのエロの話題にざわめく一方で、重三郎の言いなりで絵を書こうとする歌麿に対して「ずっと二次創作で満足してる人に、オリジナルで書いてよ!って言ってるようなもん」「歌麿、しぶしぶっぽい。惚れた弱み」「『じゃあまずは耕書堂主人図とか』もう本音がダダ漏れ・・・本当は大好きな人を描いてみたいよね」などの心配の言葉があがっていた。

■ 精神崩壊…鳥山石燕の言葉で「覚醒」へ

そして一部視聴者が危惧した通り、歌麿は自分の描きたいものを探して自問自答するなかで、必然的に母とその愛人の姿、そして2人とも自分が死に追いやったというトラウマを掘り起こしてしまった。2人の幻覚を見て苦悩する姿に「うわあ・・・心の傷全開じゃん」「自分の暗い部分を見たくなかったから、人真似をしていた歌麿には辛く厳しい戦いだな」「蔦重が歌を思っての事が、逆に追い詰めてんのがつらい」「歌麿のメンタルケアしてやれよ」と、歌麿への同情と同時に、その苦悩を軽視する重三郎をいさめる声もあった。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。母とその愛人の幻影に苦しむ絵師・喜多川歌麿(染谷将太)(C)NHK

この幻覚からついに傷害事件を起こして、このままでは精神崩壊を免れなかった歌麿。そんな彼を救ったのが、第18回で一瞬登場した妖怪画の大家・鳥山石燕! ひと時だけ交流を交わした歌麿が、絵師になったことを知って居場所を探し出し、共に絵を描いた時間を「楽しかった」と断言。しかも歌麿が没にした絵を見て、彼の心の闇をズバリ指摘すると同時に、その解決作となる言葉までかけてきた。あのわずかな出演が、絵師・喜多川歌麿の本格的な覚醒につながるとは、なんと素晴らしいロングパスだろうか。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。絵師・喜多川歌麿を説得する絵師・鳥山石燕(片岡鶴太郎)(C)NHK

これにはSNSも「『なぜ迷う、その目に写るものをただ書き写せばよい』鳥山石燕先生、シンプルながら芯を食ったアドバイス!」「歌麿に必要なのは『絵を描くのは楽しかっただろ?』という原初の衝動なので、これは一緒に絵を描いた人にしか出せない言葉だったんだな」「やっぱり蔦重のために描きたいとか、蔦重が歌麿の世界の全てであるうちは、その飛び切りの才が覚醒出来ないんだなあ」と、納得のコメントが多数上がっていた。

■ クリエイターのリアルを描き、SNSも共感

そして戯作者や絵師にアイディアを出しては尻を叩き、それを前代未聞の作品へとつなげてきた重三郎にとっては、その方法によって逆に壊れてしまう創作者もいるという、初めての失敗体験でもあった。歌麿が「人まね歌麿」として自分の予想通りの成長を遂げたり、幼少期から世話をして彼のことを100%理解していると思い込んでいるおごりもあっただろう。「自分は素人だった」というのは、その反省の言葉なのだ。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。絵師・鳥山石燕(写真左、片岡鶴太郎)のもとで修行することとなった絵師・喜多川歌麿(写真右、染谷将太)を見送る重三郎たち(C)NHK

今週の重三郎に対しては「歌麿に必要だったのはパートナーじゃなくてメンターだっただけの話だよ。歌麿が本当に開花したらプロデュースして売り出していくのが蔦重の仕事」「クリエイターの悩みを解決するのが毎回主人公というわけではなく、同じクリエイター仲間たちっていうのがリアルでいいよね」「主人公の書店/編集者がすべてをできるわけではないと描くの、本作の懐の深さここに極まりと思える」などの考察&励ましのコメントが上がっていた。

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。(C)NHK
『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回より。牡丹の絵を描く絵師・喜多川歌麿(染谷将太)(C)NHK

「重三郎に認められる、側にいる」ことに固執していた歌麿が、ついにその殻を破って、アーティストとしても個人としても重三郎から解放される瞬間を目撃する回となった。彼が重三郎のためではなく、自分のため、そして自分にしか見えないモノのために描こうとした、その回答となる作品はどのようなものとなるのか? 母・つよ(高岡早紀)が最後に重三郎を励ました通り、歌麿が「人まねではない絵」を完成させたときには、確実に重三郎の本領発揮となるはず。その出番が訪れるのを、今は静かに見守ろう。

大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。8月17日の第31回「我が名は天」では、利根川の堤防決壊で江戸の町が大洪水となる一方、田沼意次(渡辺謙)を重用していた将軍・徳川家治(眞島秀和)に思いがけない事態が訪れるところが描かれる。

文/吉永美和子

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