いけずか汚れよけか…SNS上で議論、京都「犬矢来」の用途とは

4時間前

京町家で目を惹く「犬矢来」(写真提供:竹之助)

(写真1枚)

京都の町家で、軒先に竹でできた装飾が設置されているのを見かけたことはないだろうか。この風情溢れる装飾は「犬矢来」と呼ばれ、京都ならではの伝統として知られている。

この犬矢来に関して、SNS上で「軒先に人を立たせない目的で設置されている」という旨の投稿が。すると「人よけではなく、泥や汚れから守るためだ」「犬のマーキング防止という目的だ」「そもそも人の家の軒先に立つのはおかしい」など、さまざまな意見が飛び交った。

犬矢来は、いわゆる「いけず石」のような目的があるのか、もしくは本当に汚れを避けるためのアイテムなのか。犬矢来に詳しい有識者に、詳しく教えてもらった。

■ 古くは「駒寄」と呼ばれていた犬矢来

竹を使ったインテリアや竹垣作りを手掛ける「竹之助」(福井県越前市)の代表で竹垣職人でもある片岡さんは、まず「現代では『犬矢来』と呼ばれることが多いですが、竹屋の業界では『駒寄』と呼ばれています」と呼ばれ方の違いについて触れる。

片岡さんいわく、江戸時代は家の前に馬を繋げておく習慣があり、馬が壁を壊さないよう「馬を寄せつけない」という用途から「駒寄」、時代が移ろい馬に乗ることが一般的でなくなってからは、犬の尿などで壁を汚さないため「犬を追い払う」という用途から「犬矢来」になったという説があるという。

現在では主に装飾として使われているが、エアコンの室外機やガスメーターを隠す用途、さらに窓に近寄りづらくなるため防犯の役割も持つといい、なんとも万能であることがうかがえた。「『駒寄』は京都の街並みを彩っている最高のデザインだと思っています」と片岡さんは語る。

京都の美景を象徴するアイテム

一方、京都で銘竹を卸す竹問屋「竹平商店」(京都市下京区)の代表取締役社長・利田さんは、犬矢来は「外壁の保護」という機能にくわえ現代では「歴史ある京町家の美観を継承していく」という意味合いもあるのでは、と指摘する。

例えば、最近の京都では商業施設の中に京町家風の飲食店が並び、屋外のように犬矢来を設置しているケースもあるとか。当然ながらその犬矢来には犬の尿や泥はねを防ぐ用途はないため、「京都を象徴する町並みを再現する為の装置として設置されている可能性も考えられます」と利田さん。

また、本来の犬矢来は雨風や日照を受けることで竹の表皮が剥がれ、次第に黒ずんでいく。経年変化により町家の外観と程よくマッチする場合もありつつ、竹が破損しあまりにひどい状態になった場合は改修がおこなわれることがほとんどだ。

利田さんいわく、「駒寄」という名称が一般的だった時代には、家の壁面を守る為に「他者を家に近づけすぎない」という機能も含まれていた可能性があると考えられるとか。つまり、「町家の外観を保つ」という意識からも、 「犬矢来=京都の街並みにおける美意識を象徴するアイテム」と捉えられている可能性は高いという。

もし本当に犬矢来が京都の美観を保つという目的があるとすれば、やはりそこには景観保護の一環で「人を過度に近づけさせない」という意図も含まれているのかもしれない。 時代の変化で名称が変わり、また泥や尿よけ、装飾や防犯など用途も多様化している犬矢来。単純に「いけず目的」と断言するには、奥深い歴史や意味があるようだ。

取材・文/つちだ四郎

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