歴史は繰り返す…現在とかぶった天明の「米騒動」【べらぼう】

『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第26回より。『歳旦狂歌集』の原稿を確認する重三郎(横浜流星)(C)NHK
江戸時代のポップカルチャーを牽引した天才プロデューサー・蔦屋重三郎の劇的な人生を、横浜流星主演で描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK)。7月6日の第26回「三人の女」では、米の値段の高騰で揺れる江戸の姿が「令和の米騒動」の予言か? と評判に。またコロナ禍のクリエイターたちの声を代弁するような重三郎の台詞にも、注目が集まった。
■ 米の価格高騰に蔦重は…第26回あらすじ
重三郎が日本橋に進出した頃から、市中の米の値段が上がり、昨年の倍になっていた。老中・田沼意次(渡辺謙)は、紀州藩主・徳川治貞(高橋英樹)に叱責され、米の値段を下げる政策に取り掛かる。一方重三郎は、天に向かって言霊を投げつけて、めでたいムードを作るために、大田南畝(桐谷健太)や宿屋飯盛(又吉直樹)による狂歌集の制作に取り掛かり、その挿絵を喜多川歌麿(染谷将太)に依頼する。

意次の息子・田沼意知(宮沢氷魚)は、ひそかに蔦屋を訪れ、米の値段を下げる手段を重三郎にたずねてきた。重三郎は商人としての経験から、地本問屋の仲間がいたことで商売に苦労し、「仲間」など潰れたらいいと思っていたと吐露。それを聞いた意知は、米の値段を上げる元凶となっている「株仲間」を一時廃止し、誰もが自由に米を売れる状態にすることで、米の値段が下がるはずだと治貞に進言した・・・。
■ 令和の話?現代と怖いほど重なる「米不足」
日本の近世最大の飢饉と言われている「天明の大飢饉」。この数年前から続いていた冷害に、浅間山などの噴火が重なって、天明3年は歴史的な不作となってしまう。なけなしの米は年貢として主に都市部に回されてしまったため、特に東北地方の農村部は壊滅的な食糧不足となり、一説には90万人以上も日本の人口が激減したという。こう振り返ってみても、本当に田沼意次はタイミングが悪い時に、最高権力者になってしまったものだ。

そして都市部に集まった米も、米問屋が米不足を見越して売り控えを行い、その結果米の価格が急上昇。まだドラマが始まった頃は、米の値段が下がって武士がしんどい思いをしている・・・なんて話をしていたのに、実に極端な事態だ。しかし同時に「金に頼りすぎるな。米を大事にしろ」という「白眉毛」こと松平武元(石坂浩二)の忠告が、ここで意次に効いてくることになったわけだから、やはり白眉毛、ただの口うるさいジジイではなかった。
この第26回がはじまると、SNSでは一斉に「これ、令和の話じゃないですよね?」「このドラマこそが未来の予言じゃないのか」など、7月5日日本滅亡説とも絡めた驚きの声が上がっていた。別に不作じゃないのに(ここだけは天明とは決定的に違うのだけど)、知らぬ間に米が市場から消えて、販売されたかと思ったら異常に高い値段。しかしある所には「一昨年の米」があり、なんらかの意図があって米不足が仕組まれているのではと、市民もうすうす気づいてる・・・って、本当に重三郎の時代と現代が、怖いほど重なっている。

でもこれはドラマのために盛って描かれたわけではなく、ほぼ実際にあの当時に起こったこと。だから決して予言ではなく「歴史は繰り返す」という真理に過ぎないのだけど、もし『べらぼう』が去年放送されていたら、私たちは「米が高い? あら、大変ね~」と、他人事のような気持ちでこの騒動を見ていただろう。視聴者が米不足に対して、非常に敏感になっている時期にこのエピソードが放送されたことは、確かになかなかの奇跡だったと思う。
■ 横浜流星のドラマへの想いにも通ずる台詞
横浜流星はドラマの撮影が始まった頃の囲み取材で「この話をいただいたのは、コロナ禍でエンタメが落ちていた頃だったので『エンタメをもっと豊かにしたい』と思えました」と語っていた。つい5年ほど前の今ごろは、エンターテインメントが「不要不急」なんて言われて、その存在意義を関係者の誰もが見つめ直していた時期。そして『べらぼう』関係者は、その一つの回答と言えるものを、今回の重三郎や大田南畝の行動に込めていた。

南畝は「俺のところには3俵、みんなのところには5俵が空から降ってきますように!」という歌を即興で詠んで、米が買えなくて意気消沈していた人々に笑いを届けた。それを見て重三郎も「俺たちゃ米一粒作れねえこの世の役立たずじゃねえか。そんな俺たちができることってな、天に向かって言霊投げつけることだけだろ」と、世の中を明るくするための狂歌集作りに乗り出す。おそらくこのシーンの撮影には、横浜本人があの当時抱えていた鬱屈を晴らす気持ちがあったのではないだろうかと、勝手に想像する。

田沼意次や意知が、米を世の中に行き渡らせるために実働的に動く一方で、重三郎たちはおもしろい本を通じて人々の気分を前向きにして、重い空気を払拭するという形で、社会に貢献する。本作りを始めとするエンタメは、政治ほど直接的は働きかけないけど、間違いなく社会に必要なものなのだ・・・ということを高らかに宣言したこのエピソードは、コロナ禍を経たエンターテインメント関係者の思いを代弁したシーンに思えた。
多分「令和の米騒動」がなければ、第26回はこの重三郎の台詞に一番注目が集まっていた気がするけど、世間の関心が完全に「米」の方に寄っていたために、SNSでの反応は、さほど大きくなかったように思える。しかしこれはきっと森下が、横浜が、そしてすべての『べらぼう』関係者が切実に訴えたかった言葉だったと思うし、エンタメと少なからず関わっている筆者も「そうそう、そうなんだよ!」と大きく首を縦に振ったものだ。
■ 来週は波乱の予感…ラストに死神・一橋治済

さて来週は、この意次と重三郎の行動に対する一つの決着が出てきそうな感じだけど、最後に『べらぼう』における死神キャラ・一橋治済(生田斗真)が出てきたのが不穏な予感しかしない。さらに予告によると、意知をめぐるあの大事件がついに起こりそうなのだけど、まさかアレまで治済が関わってることにするの・・・? 誰袖(福原遥)をめぐる恋のライバルでもある松前廣年(ひょうろく)も面会していることを考えると、どうもあの事件、ただの家系図の怨恨の線で終わらせることはなさそうだ・・・って勘弁してくれ(悲鳴)。
◇
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』はNHK総合で毎週日曜・夜8時から、NHKBSは夕方6時から、BSP4Kでは昼12時15分からスタート。7月13日の第27回「願わくば花の下にて春死なん」では、田沼意知による花魁・誰袖の身請け話が停滞するところと、意知が関わっている蝦夷地上知の計画に、一橋治済が介入するところが描かれる。
文/吉永美和子
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