若者女子を射とめる「泊まれる演劇」、人気のワケは繋がりに?

「HOTEL SHE,OSAKA」(大阪市港区)でおこなわれている泊まれる演劇『ホテル・インディゴ』
ホテルのなかでステイしながら演劇を観る・・・いや、体感する。そんなプランが大阪で若者から人気を集める「HOTEL SHE,OSAKA」(大阪市港区)でおこなわれており、「なかなかユニークでハマる」との噂を頼りに、女性記者が1人で潜入してきた。
■ 自ら歩き回って「芝居を観る」、どういうこと?
数年前より海外で勢いをのばす没入型演劇(通称:イマーシブシアター)からインスピレーションを受け、誕生した「泊まれる演劇」。実際にNYでは、『スリープ・ノー・モア』という作品があり、廃墟ホテルを劇場代わりに、観客が自らホテル内を散策しながら芝居を「体感」している。

「泊まれる演劇」は2020年の5月にスタートするや、リピート客が後を絶たず、即完売することも多いという。ホテルの利用層が若者中心ということもあり、「特に20〜30代の女性客に刺さっている感覚はあります」と、プロデューサーの花岡直弥さんは話す。劇場に頻繁通う「演劇ファン」層とは、少し違うことがここで分かった。
■ 「体験」が苦手な記者、大丈夫かな・・・
チェックインするや、もうそこはホテルという名の劇場。ロビーにカフェ、建物全体が作品の一部と化しており、この日の演目『ホテル・インディゴ』が始まるのを待つ。だが、ここまで来たものの実は記者、「体験型がちょっと苦手」。断然演劇は、「座って(静かに)没頭したい派」だったので、楽しめるか不安を抱きながら、周りの参加者を見回していた。

BGMとともに開幕の合図があり、参加者がロビーに集められ、作品はスタート。とあるホテルで度々起きる不可解なできごとをきっかけに、宿泊者やホテルで働くスタッフらが交錯していく人間模様が描かれるようだ。開始10分も経たないうちにさっそく席を立たされ、「できごと」の謎を解き明かすべく、ホテル内を散策することとなった。
なにせ「体験型が苦手」な記者だが、予期せぬ形で始まった不思議な芝居、そして動かざるをえない状況→足を運んで「見なければ」という意識が芽生えはじめ、3階建てのホテル内にある各部屋で繰り広げられる芝居を見るべく、ホテルを歩き回った。そうすると、周りの参加者との会話が自然生まれたり、そしてときには団結したりと、ひとりで来たはずなのに「誰かと共有しながら観ている」、そんな気分になった。
■ つい、追いかけたくなる「登場人物」たち
歩き回るなか、記者がいちばん気に入ったポイントは「気になるキャラクターを追うことができること」。従来の芝居だと、約2時間、観客全員が同じモノを観るため、推しや気になる存在がいようと、ストーリーは着々と進んでいく。そこばかりは観ていられないのだ。

だが、この企画の場合、ホテルの各所にキャストがいて、それぞれの場所で芝居が繰り広げられている。最後にそれらの点で存在していたものが線となって、結末を迎えるのだが、その線の組み立て方は自分次第。「なんか、この登場人物が気になる」という直感があれば、その人に付いていったり、はたまた横に座って話を聞いたりと、作品のなかに溶け込みながら楽しむことができるのだ。
この「泊まれる演劇」を体験してみて感じたことは、脚本・衣装・セットなど細部へのこだわりはさることながら、どこか人をソっと包み込んでくれるような、あたたかさであった。従来の芝居では体験できない、見ず知らずの参加者(観客)と思いを共有してしまったり、「もっと知りたい」と登場人物の後を追ってしまう珍しい経験が、そうさせるのだろうか。

コロナ禍で、とにかく人と密に接することを避けてきた生活だったからこそ、そこに生まれた「繋がり」にうれしくなったりする。「単なる観劇では終わらせない、『没入型演劇』とはこのことか」と思い知らされた。と、つらつらと記者は綴っているが、「泊まれる演劇」なので終演後はこんな感想を、ともに参加した友人や恋人と、部屋で泊まりながら語り合うのが目的。後味までしっかりと噛みしめて、ベッドでぐっすり眠りたい。
◇
泊まれる演劇『ホテル・インディゴ』は、3月3日〜4月24日に上演。価格は1名1室(1人あたり)2万600円〜、2名1室(1人あたり)2万1000円〜。一部売り切れの回あり、ほかの演目など、詳細は公式サイトにて。
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