まるで自宅にお邪魔したような…貴重すぎる「細野晴臣展」

観光地の繁華街を思わせるエキゾチックな入口
最近では海外のミュージシャンからも盛んにリスペクトを表明する声が挙がり、改めてその音楽的偉業に対する評価が高まりをみせる細野晴臣。11月12日から大阪・梅田で開催中の展覧会『細野観光1969ー2021』では、デビューからの50年を振りかえることができる。
細野ワールドの源泉や歩みの断片が集約
日本語ロックの始点のひとつとなったはっぴいえんど、そしてワールドワイドに活躍したYMOに在籍する傍らで、ソロとしても変幻自在かつ常に時代の一歩先を行くサウンドを提示し続けてきた細野だが、彼ほどに広範な音楽ジャンルを渡り歩いてきた音楽家も稀だろう。
ロック~フォークはもちろんのこと、テクノ、ファンク、フュージョン、アンビエント~エレクトロニカ、歌謡曲、1950年代以前の音楽、ワールド・ミュージック、モンド、エキゾチカなど。半世紀以上に及ぶ主要なディスコグラフィーを振りかえるだけでも頭がクラクラするが、今回の展覧会は、それらを生み出してきた膨大にして貴重な楽器コレクションの数々、写真、映像、自筆ノート、愛読書などを5つの時代に分けて展示し、氏のインスピレーションの源泉に触れることができる唯一無二の展覧会となっている。

たとえば、細野の自宅兼プライベート・スタジオにお邪魔し、気が済むまで所有されている楽器の数々、本棚、これまでの活動のアーカイヴや写真などを拝見させてもらう機会があれば、同じようなことを体験できるのかもしれないが、それはなかなか実現不可能なこと。
しかし、この展覧会では、バンド、ユニット、ソロ活動から楽曲提供、プロデュース・ワークの数々を網羅した壮大な年表を眺めながら、それらのコレクションを手が届く距離で閲覧することができ、自筆の歌詞や楽譜ノート、そこに書き込まれていたイラスト、あるいは旅行先のボンベイから愛猫に宛てて出したポストカード(!)までもが展示されている。
オープンの前日におこなわれたプレス向けの内覧会の囲み取材では、氏は「さらけ出しているから、恥ずかしいですよね」とシャイに語っていたが、細野ワールドの源泉や歩みの断片が集約された空間は、半世紀以上に及ぶ彼の業績を改めて1本の太い線で繋いでくれる。

主要作のポイントになった楽器がずらり
また、今回の大阪会場はレイアウトが円形となっており、円の外周に年表がぐるりと貼られ、その内側によりプライベートでコアな展示物や本棚などがほぼ時系列に対応して置かれている仕組みとなっているのも魅力的。氏の業績とその脳内をいつまでも行ったり来たりしながら楽しめるような構造で、コアなファンにとっても歴史の一部しか知らない方にも新たな発見があるだろう。
どの時代も興味深いが、いくつか挙げるとするならば、70年代半ばにハワイで購入された、ボディの真ん中あたりに三線のような蛇皮が張られていて当時に「チャンキー・ミュージック」を発想するキッカケになったという不思議な小型ギター、トロピカル3部作からYMOへ移行する時期の傑作『はらいそ』の冒頭を飾る『東京ラッシュ』で使われたクラクション。
80年代初期の作品群で活躍したサンプリング・キーボードの元祖であるイミュレーター(音の保存に使われたフロッピーのデカさにも注目!)、インドネシアのバリ島で購入されて1982年に発表された『フィルハーモニー』で効果的に使われたグンデルなどなど・・・。主要作のポイントとなった楽器の数々が、細かいモノまで豊富に置かれているのはやはりうれしいところ!

精神世界に深く傾倒していた時期の愛読書と思われるカルトな書籍や漫画などが並ぶ「細野文庫」のコーナーも、ワールド・ミュージックやアンビエントに向かっていた「彼岸の音楽(1984~2004年)」の頃の氏のベーシックな部分での考え方などが窺えるようで、あらゆる面から「脳内」へと引き込まれていく。
「頭クラクラ、みぞおちワクワク、下半身モヤモヤ」とは、氏がYMOのコンセプトとして掲げた名言だが、まさにそんな気分にさせてくれる稀代の音楽家による展覧会。リアルタイムで聴き続けてきた世代も、後追い世代も、これからもっと聴いてみようという方も、貴重な機会をお見逃しなく。
期間は12月7日まで、「グランフロント大阪北館 ナレッジキャピタル イベントラボ」(大阪市北区)にて開催。料金は一般1500円など。
取材・文/吉本秀純
細野晴臣デビュー50周年記念展『細野観光1969-2021』
期間:2021年11月12日(金)〜12月7日(火)
時間:10:00〜20:00
会場:グランフロント大阪 北館 ナレッジキャピタル イベントラボ
料金:一般1500円、学生・65歳以上1000円、中学生500円、小学生以下無料
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