アメリカが抱える人種差別・銃の問題描く、今観たい配信作品

帰宅途中に警官からとりおさえられる主人公がタイムリープし続ける『隔たる世界の2人』(C)COURTESY OF NETFLIX Netflix映画『隔たる世界の2人』独占配信中
見始めたら止まらない動画配信ドラマ・映画を、映画評論家・田辺ユウキがセレクト。今回セレクトしたのは、第93回アカデミー賞で実写短編映画賞を受賞した『隔たる世界の2人』と短編アニメ賞に輝いた『愛してるって言っておくね』。
両映画はNetflixのオリジナル作品として授賞式前からすでに配信されており、SNSでも「短い時間のなかにたくさん大事なことが詰め込まれている」「涙腺崩壊」など、それぞれが早くから感想が多数投稿されるなど盛り上がっていた。そんな2つの作品を、アメリカの社会問題に対して放つメッセージとともに紹介したい。
ジョージ・フロイトさんの事件を連想させる『隔たる世界の2人』
『隔たる世界の2人』はラッパーのジョーイ・バッドアスが主演をつとめた32分の物語。彼が演じるのは、黒人の若者カーター。一夜を共に明かした女性・ペリーの部屋のベッドで目覚め、彼女と過ごす時間に後ろ髪をひかれつつ、愛犬が待つ自宅へ帰ることに。

しかし外でニューヨーク市警のメルク巡査に呼び止められ、身体検査に抵抗感を示したことから無理やり地面に押さえつけられてそのまま死亡。ところが次の瞬間、カーターは再びペリーのベッドの上で目覚める。
メルク巡査に押さえつけられたカーターが「やめてくれ、息ができない」と苦しみ、そのまま絶命する痛ましい様子は、2020年5月、白人警察官の暴力的な対応によって窒息死に追いやられたジョージ・フロイトさんのことをモチーフにしている。
アメリカでの話題作『アメリカン・ユートピア』にも通じるテーマ
BLM(Black Lives Matter)は昨今、映画やドラマでも言及すべき最重要な題材に。『隔たる世界の2人』で語られるテーマ性は、スパイク・リー監督、デヴィッド・バーン出演のコンサート映画『アメリカン・ユートピア』(近日公開)にも通じている。
『アメリカン・ユートピア』では、デヴィッド・バーン率いるバンドが、不条理な死を迎えた黒人たちの名前を連呼し、歌にする。そして「この人たちのことを忘れるな」と言葉を投げかける。『隔たる世界の2人』でもまたカーターの受難を映し出しながら、警察官に殺害された黒人たちの実例もまじえ、そういった事件のことを「決して忘れてはならない」と訴えている。
また本作は、主人公のカーターが何度も同じ日常を繰り返す、タイムリープという表現が用いられている。タイムリープ映画はたくさんあるが、感覚的には『ハッピー・デス・デイ』(2017年)に近い。なぜ『隔たる世界の2人』はタイムリープで描く必要があるのか? それは「白人による黒人差別はいつまでも繰り返され、終わりが見えない」ということを伝えるためではないだろうか。
「銃撃事件は国家の恥」を描く、『愛してるって言っておくね』
『愛してるって言っておくね』は、『トイ・ストーリー4』(2019年)の原案を手がけたウィル・マコーマックと俳優・脚本家のマイケル・ゴビアが共同監督でつくりあげた12分のアニメーション。
娘を亡くして以来、喪失感から距離を置いて暮らす夫婦の姿を描いている。なぜ娘は亡くなったのか? 彼女は、通っている学校内で起きた銃乱射事件に巻き込まれたのだ。

銃による事件は、映画『エレファント』(2003年)の題材にもなった1999年のコロンバイン高校銃乱射事件はじめ、アメリカが長年に渡って取り組んでいる大きな社会問題だ。
2021年に入っても頻発しており、4月も各地で銃発砲事件による犠牲者が相次いだことから16日、ジョー・バイデン大統領が「銃撃事件が毎日発生している。国家の恥。終わりにしなければならない」と声明を出したばかり。
だれにでも当てはめられるキャラクターの意味
劇中、銃乱射事件が起きる場面では星条旗が印象的に登場する。全編にわたってモノクロに近い色合いでストーリーが綴られるが、この場面での星条旗については色鮮やかに描かれている。これはアメリカの銃問題が、過去から現在にいたるまで一向に解決されず、常に進行形であることを意味づけている。

また明確に語られているわけではないが、主人公となる親子たちはアジア系のようにも見える。というか、どの国の人にもあてはめられるキャラクターデザインがなされている。さまざまなルーツを重ねて観ることで、人種差別、ヘイトクライムに関しても考えさせられる。
社会問題を題材とした『隔たる世界の2人』と『愛してるって言っておくね』。このふたつの短編映画が2021年のアカデミー賞でそれぞれ賞を受賞したことは、改めて世間の意識が変化してきたことを感じさせてくれた。
32分と12分という短い時間のなかで発信されるメッセージは、どちらも長年アメリカが抱えつつも解決できていない問題。ただこれを他国の話としてだけではなく、改めてじっくりと考えたくなる作品だ。
文/田辺ユウキ
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