是枝裕和監督「今までで一番大変、濃淡の度合いで悩みました」

監督・脚本は、『そして父になる』(2013年)、『海街diary』(2015年)、『海よりもまだ深く』(2016年)と作品を発表するごとに高い注目と評価を集める名匠・是枝裕和。主演は福山雅治と役所広司。この3人の顔合わせに期待しない邦画ファンはいないだろう。しかも内容が、弁護士と被告が繰り広げる心理サスペンス。映画『三度目の殺人』について、評論家・春岡勇二が是枝監督に話を訊いた。
取材・文/春岡勇二
「クランクアップぎりぎりまで・・・」(是枝監督)
──近年、家族をテーマにした作品を撮り続けてきた是枝監督が、今回は法廷劇、それもすさまじい凌ぎ合いの心理サスペンスが展開される物語に挑んだ理由はなんですか?
『そして父になる』をやったとき、法律監修で入ってもらった弁護士さんと話していて、あるときその人が「法廷って真実を明らかにする場所じゃないですから」って言ったんですね。「じゃあ何をする場所なんですか?」って訊いたら、「利害調整です、原告と被告の」って言う。なるほどなと思って、だったらいつもその利害調整を計っている弁護士が、逆に法廷で真実を知りたがる話って面白いかもって考えたのがスタートです。
──映画でその弁護士を演じているのが福山雅治ですね。
そうです。もうひとつの始まりは、累犯犯罪者への量刑、審判の下し方への興味ですね。一度罪を犯して服役し、出所してからまた犯してしまう。それが殺人であれば、最初と2度目で動機はまったく違っても関係なくて、「2度目はダメでしょ。死刑確定」となってしまう。いわばそういったシステムのなかで死刑判決を受けた人を描いてみたかった。
──弁護士と累犯犯罪者への審判、ふたつの興味が重なったわけですね。映画で累犯犯罪者である被告を演じているのが役所広司。福山雅治vs役所広司というすごい顔合わせ(笑)。役所さんとは初めての仕事ですね。
初めてです。これまで、『日本アカデミー賞』の会場とかで何度か顔を合わせてて、「いつか、一緒にやりましょう」と互いに言ってはいたんです。僕にもう少し、演出家として自信がついたら、と(笑)。俳優・役所広司を撮るのには、そりゃあ覚悟がいりますから。それが昨年の正月、プロットを考えているタイミングで役所さんから年賀状が来て「そろそろですね」と書いてあった。それで覚悟が決まったところがありました。
──役所さんが出演することによって、被告の役に変化はありましたか?
これで、キャラクターとしての善悪の幅がどこまでも広げられると思いました。役柄が大きく膨らみましたね。
──そうなると、脚本づくりは大変だった?
今までで一番大変でした。死ぬかと思いました(笑)。役所さんに演じてもらうことで、この役を僕の理解の「外」におこうとしたんです。物語の登場人物なのだから、人格の統一性は大事ではあるけれど、人間はそんなに簡単じゃない。僕にとってもこの人物は他者なので、理解できるところとできないところの両方を残さなくてはならない。その濃淡の度合いで悩みました。
お客さんから見ても、わかりやすい人物ではダメだし、かといって、「もう、こんな人わからなくていいや」と興味を失われても困る。わからないけれど、なにか目が離せないという感じにする匙加減ですね。途中で僕も、この人はホントはどんな人間なんだってわからなくなって。劇中の福山さんと同じようになりました(笑)。
──脚本は撮影に入っても書いていたんですか?
もう最後まで。クランクアップぎりぎりまで書き直してました。
──スタッフも不安だったでしょうね(笑)。
「監督、(役所演じる)三隅はホントに犯人なんでしょうね?最後に無罪なんてないでしょうね」って念を押されてました(笑)。
──演じている役所さんや福山さんはどうされていたんですか?
福山さんは、役所さんに訊きに言ってましたね、「ほんとはどうなんですか?」って。そうしたら役所さんは、「どうなんでしょうねぇ、僕もわからないです。でも、わからなくっていいんじゃないですか、最後まで」って言ってましたね。

──それであの演技ですか。やっぱり役所広司って俳優として怪物的ですね。
普段は穏やかでね。休憩時間には福山さんとギターの話なんかして。それが本番になるとすっと役の人物になって「殺している数も3人じゃきかないんじゃないか、こいつ」って思わせる。
──福山さんはどうでした?
彼はとても映画的な俳優だと思います。黙って立っている姿が強くて、立っているだけで物語をまとっている。今回も役所さんと堂々渡り合っているし。ただ、2人ともすごい俳優なんだけど、持っているものが違うので、対決はしていてもいわゆる演技合戦にはなってない。だから観ていて暑苦しくならなくてよかったです。今回は福山さんの力を役所さんがさらに引き出した部分も多かったように思います。
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