【連載】春岡勇二のシネマ重箱の隅 vol.4

監督自身が出演する、映画のハナシ
「あれ、この人は…」、映画のキャストのなかに、意外な人を発見することがある。多いのは、原作者だ。例えば、現在公開中の阿部サダヲ主演の時代劇『殿、利息でござる!』には、原作者で平成の司馬遼太郎とも呼ばれる歴史学者・磯田道史がちょんまげに裃姿で登場している。演じている役は、郡奉行(こおりぶぎょう)・今泉七三郎。台詞はないが役名がちゃんと付いているのだから、エキストラではない。
また、6月4日から公開される、岩田剛典と高畑充希のラブストーリー『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』。原作者は、『阪急電車』『図書館戦争』など映画化された作品も多い人気作家の有川浩。彼女もこの映画に出ている。登場するのは、終盤のパーティ・シーン。これも、その他大勢ではなくてちゃんと役柄があり、それは作家に関連する仕事の人。気になる人はご確認あれ。
このように、作品に縁のある人がゲスト的な意味合いでワンシーンだけ登場するのを「カメオ出演」と言うのだが、その多くはパーティなど大勢が出ているシーンが多い。同じようにパーティ・シーンに原作者がカメオ出演して話題になったのが、斬新なトリックを用いてアイドルたちの内面に迫った映画『ピンクとグレー』だ。物語の中盤にあるパーティのシーンで、主演の中島裕翔と菅田将暉の後ろで、グラス片手に立ち話をしているのが原作者の加藤シゲアキだ。加藤は作家であると同時に、現役アイドルでもあるので気づいた人は多かったと思う。ちなみに加藤の相手は、この映画の監督の行定勲で、つまりこのシーンでは、主演の2人の後ろで原作者と監督が立ち話をしていたのだった。
そういえば、本連載の第1回目に採り上げた『俳優 亀岡拓次』にも原作者が出演していた。山崎努扮する巨匠監督の前で、安田顕演じる主人公・亀岡と法師武者姿で殺陣のリハーサルを演じているのが、原作者の戌井昭人だった。もっとも戌井自身がパフォーマンス集団の主宰者で役者でもあるので出演していても違和感はない。ただ、彼は作家としてこれまで5回も芥川賞候補となっており、今後受賞する可能性も大きく、そのときにはこのシーンが映像資料として用いられるかもしれないので、いまのうちにツバをつけておいた方がいいだろう(なんのこっちゃ)。
そして、原作者に次いでカメオ出演が多いのは、『ピンクとグレー』の行定勲のように、やはり監督だろう。『殿、利息でござる!』の中村義洋監督は、12年の自作『ポテチ』では、浜田岳扮する主人公の気のいい親方を演じていた。昨年度の『キネマ旬報』ベストテンで第3位に選ばれた、神戸を舞台にした映画『ハッピーアワー』では、濱口竜介監督も主人公の女性のひとりと付き合う、子持ちの男性の役で出演している。ただ監督の場合は、有名なアルフレッド・ヒッチコック監督のように洒落っ気で行うカメオ出演というよりも、その役にふさわしいキャストが見つからなかったり、俳優を使うより自分でやった方がいいと判断した場合など、ある種の必要に迫られて、といったケースが多いように思う。
そんななか、ちょっと変わった形で監督が出演しているのが、これも現在公開中の映画『テラフォーマーズ』の三池崇史監督だ。どの役で出演しているか、インタビューなどで監督自身が明かしているので、ご存知の方も多いだろう。火星に生息している進化した謎の生物・テラフォーマーだ。といっても、監督が着ぐるみに入って出演しているわけではない。テラフォーマーはCGで造られていて、その動きをあらかじめデジタルで記録しておくモーションキャプチャを監督自らがこなしているのだ。その理由は「自分でやった方が手っ取り早いから」。そう聞いて、およそ20年前、撮影現場を訪ねたときの三池監督を思い出した。

映画は『岸和田少年愚連隊 血煙り純情篇』。泉州の港での撮影で、おそらく岸壁近くにもっと鳥に飛んできて欲しかったのだろう。監督が餌の入ったバケツを手に取り、岸壁まで行ってパッパッと空と海に向かって投げ込んでいった。本来なら助監督の仕事だろうと思いながら、三池監督は監督だからとエラそうなことはせず、自分でやれることはチャッチャとやっちゃう人なんだなと思った。変わってないんだ。そして先日、大阪・梅田の映画館であった完成披露上映会でのこと。舞台挨拶があり、監督と主演の伊藤英明と武井咲、それに大柄なテラフォーマー(!)まで登壇した。無事に挨拶が終わり、退場するときのことだ。テラフォーマーは着ぐるみなのだが視界が悪かったのだろう、階段でちょっとよろめきそうになった。すると、その前から心配そうに見ていた監督がさっと手を差し伸べてテラフォーマーを支え、抱きかかえるようにして階段を一緒に降りたのだ。監督にとってもテラフォーマーはもはや他人と思えないのだろう。そう考えると、テラフォーマーの顔が三池監督の顔とダブって見えてしまうのも仕方のないことだ。
文/春岡勇二
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