ピンク映画で群像劇を撮る廣木隆一監督「不健康さが良いんです」

映画『さよなら歌舞伎町』の廣木隆一監督
同棲中の恋人に「一流ホテルの従業員」と嘘をついて青年が務めるのは、新宿のラブホテル。そこでは、震災を機にAV女優になった学生、勤務最終日を迎えた韓国人のデリヘル嬢、不倫中のエリート刑事カップルら、いろんな生活背景を抱えた人々が集っている。
悲劇的、喜劇的・・・事情はそれぞれなれど、ラブホでヤることは結局「ソレ」。いずれの模様をエモーショナルに寄らず、極めてニュートラルに、人間ならではのおかしみを浮き出していく。映画『さよなら歌舞伎町』は、廣木隆一監督の出自であるピンク映画を大いに意識させる、セックスを軸にしたヒューマンドラマとなっている。
取材・文/田辺ユウキ 写真/渡邉一生
「惹かれたのは群像劇、ただ、中身はピンク映画っぽい」(廣木隆一)
──廣木監督の作品は、人間ドラマだけではなく、その時々の「東京の街」がどう映っているかにも、いつも注目しています。近作では秋葉原通り魔事件を題材にした『RIVER』(蓮佛美沙子主演)が象徴的ですし、今回も現在の新宿の息づかいがすごく伝わってきます。
東京の街にはそれぞれに顔があります。寺島しのぶさんが主演した『やわらかい生活』(2006年)では蒲田を映しましたし、今回の新宿にしても、そのほか渋谷や秋葉原にしても、それぞれ、集合体として表情の棲み分けが自分のなかではっきりしています。新宿はすごくきれいな街になった。
ゴールデン街は外国人旅行者の行きたい場所のベストスポットになっている。ただ花園神社、伊勢丹、コマ劇場の広場のあたりは相変わらず変わっていない。昔の面影が残っているような、残っていないような、そういう雰囲気が今の新宿にはありますね。
──かつて赤線地帯があって、1960年代サブカルチャーの発信地で、大島渚監督が魅了されて・・・という新宿のいかがわしさも確かに残っていますよね。そういえばデビュー作のピンク映画『性虐!女を暴く』は新宿で撮影されていますよね。
今は新宿にはそんなに行かなくなったけど、昔はあそこに行けば演劇、アート系映画館、ライブハウスなど文化的なものがたくさんあって、常に何かを発信し、刺激を受けていた。1960年代の新宿の盛り上がりは、まだ自分は田舎にいたから、「ホコ天ってあるんだ、すごいな」と憧れがありましたし。
自分が上京したときは文化発信地としての新宿の匂いは残っていたけど、今はその部分に関してはほとんどないような気がするね。いろいろと、整理されちゃった。

──今回の『さよなら歌舞伎町』の醸し出すムードは、かつての新宿のいかがわしさがあります。それは監督・廣木隆一、脚本・荒井晴彦/中野太という、かつてピンク映画に関わっていた皆さんが揃ったところも起因していると思います。それにしてもこの組み合わせが、今、一般映画としてスクリーンで上映されるとは!
ハハハ(笑)。『新宿乱れ街 いくまで待って』(1977年/曽根中生監督、荒井晴彦脚本)と変わらないよね。もともとは自分が監督という想定ではなかったらしいけど、脚本を映画制作会社に持ちこんだとき、「廣木はどうだ」という話があったみたいで。俺のところに直接来る話としては「ベタじゃねえか?」と思うし、荒井さんもきっとそう思っていただろう(笑)。
僕がこの映画に気持ちが惹かれたのは群像劇という部分。(群像劇をたくさん撮っている)ロバート・アルトマン監督の映画が好きだったから。いろんな人物の話があり、それが総合的にどんなオチになるのか。難しいけど、挑戦したかった。ただ、中身はピンク映画っぽいと思います。
映画『さよなら歌舞伎町』
2015年1月24日(土)公開
監督:廣木隆一
出演:染谷将太、前田敦子、イ・ウンウ、ロイ(5tion)、大森南朋、松重豊、南果歩
配給:東京テアトル R15+
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