新旧名作を随所に取り入れた、入江悠監督の「夢」の映画作り

「亀梨和也の代表作にしたかった」(入江悠)
──亀梨さんの拷問のあとは、ヒロインの深田恭子さんがばっちばちにムチで打たれる。しかも、執拗なまでに。
メジャー映画なら(ムチの打たれる場面は)ここで終わるよなというところで、さらにやるという。これは僕が、石井隆監督が好きで、檀蜜さんが主演の『甘い鞭』の拷問シーンの現場を見学させていただいて、「やっぱり石井さんはこれくらいやっているんだな」と感動したのがきっかけなんです。
「メジャー映画といえども、これは負けてられない」と。あの場面の撮影では、照明部の方にも「こんなにピンクな色でいいんですか」とか言われて・・・(笑)。だけど、こんな深田恭子は見たことないよね、という感じですよね?

──そうそう。あの一連の流れは、入江監督はこの映画の中でものすごくやりたかったんだろうなって、伝わってきましたよ。
これはある種のアイドル映画だと思うんです。主人公が追いつめられれば追いつめられるほど、輝く。相米慎二監督の『セーラー服と機関銃』で主演の薬師丸ひろ子さんがクレーンに吊るされてザブンザブンと沈められるところがありますが、「トップアイドルをこんなふうにするの!?」と、その頑張りを見て応援したくなるじゃないですか。
僕が観て育ったハリウッド映画は、そういうものが多かったですよね。『ターミネーター』シリーズも2作目で、強かったシュワちゃんが追いつめられていたし。ジャッキー・チェンもそうですけど、あれだけのスターがこれだけ身体をはるのかと。
──前作『日々ロック』もそうですけど、入江監督の映画にはそのイズムがありますよね。どんどん苦しんでいく。
最近ではマーベル原作の映画は特にその傾向が強いと思うんです。『キャプテン・アメリカ』も、主人公が強いんだけど、どん底まで落とされるところが好き。『アイマンマン』もあれだけ金持ちで頭も良いのに、やっぱり底に落ちる。脚本家の渡辺雄介さんとは「ボトム」という言い方をしていたのですが、日本映画のボトムってちょっとヌルいんじゃないかって。もっとどん底の、下の下までいかないと、回復したときの喜びがないと思う。
──しかも亀梨和也さんという国民的な人気者にして、それが見事に裏切られる。
「亀梨和也の代表作」にしたかった。みんなのパブリックイメージに乗っかってしまうと、そうはならないけど、それを壊して「亀梨くんにこんなことまでやらせるの!」とびっくりさせないといけない。彼は俳優としての姿勢も素晴らしいし、常に自分を更新して次のステージにいこうとしている。テレビなどで運動能力の高さは知っていましたが、その印象のはるか上をいっていました。
僕は香港映画が好きなので、同じように現場でいろんな設定を追加していくんですけど、ちゃんと対応してくれる。そこまでやってくれるなら、僕の方も「もっとこうしていこう」となりますよね。あの身体能力と柔軟性はすごい。あと、アクションをしてそれで終わりではなく、歌舞伎の見栄をきるようなことができるので、芝居が流れない。
──そう、小林旭さんを思い出すんですよね。
あ、そうですね。あと、石原裕次郎さんの初期の頃。男が惚れる。今はリアル志向な映画ばかりなので主人公が見栄をきることはあまりないけど、でも高倉健さんや富司純子さんの「よっ、待ってました!」みたいな感覚が僕は好き。あと、亀梨くんはストイックで手を抜かない。インドネシアの食堂で亀梨くんのお皿を見たら、量がすごく少なくて、イカみたいなものがちょこっと乗っているだけ。
「どうしたんだろう。まっ、いっか!」と思っていたら、その1週間後にあの裸で吊るされる拷問シーンがあって。「逆算して仕上げにかかっていたのか!」と。むしろ僕が監督として気づかなきゃいけないのに、気づかされた。亀梨くんのおかげで映画が豊かになりました。
──亀梨さんと深田さんのシーツにくるまってのラブシーンもありますが、あれはアジア映画っぽいというか、チャン・イーモウ監督の映画を思い出しました。
ハハハ(笑)。確かに! チャン・イーモウはやりますよね。そうそう、あのシーンの設定は脚本にはなかったんですけど、単なるラブシーンはおもしろくないので、何か味付けをしようって。で、ちょうどその頃にリドリー・スコット監督の『悪の法則』を観たんです。冒頭で、マイケル・ファスベンダーがシーツの中でチュッチュしているんですよね。「あ、これいいな」って(笑)。
それに僕は男子校出身なんで、男女だけのラブシーンは何か照れ臭いから、「じゃあここに牛を置いてみよう」と付け足した。なんかラブシーンって恥ずかしいんですよね。でも深田さんのキスシーンはドキドキしちゃいますよね、あれは悪いキスですよ(笑)。スパイ映画って女性がとても重要で、あっちから迫られたら、自分だったら惑わされてコロッといっちゃう。刹那的に女性に騙されても人生は良いんじゃないかと。そういう気持ちが、スパイ役の亀梨くんに乗り移っている。

──このインタビューのなかで、とてつもない数の映画のタイトルや人物が出てきましたよね。僕と入江さんが同い年(1979年生まれ)ということもありますが、お話しされている感覚がほぼ同じなんですよ。
自主映画時代から、世代的にハリウッド映画、ジャッキー映画で育っていて、でも日本国内ではやっぱりあの規模の映画を撮るのは難しいじゃないですか。ただ、この『ジョーカー・ゲーム』は、自分にとって初めて、小学校のときにハマった映画の夢に入った感じがする。
『ターミネーター』『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、エディ・マーフィーの映画とか。そういう入口に立たせてもらった。自分の夢がつまっていて、童心にかえった。こういうエンタテインメントを子どもの頃に観て、寂しさを紛らわせていたなって。だから、『ジョーカー・ゲーム』を作らせてもらって本当にうれしかったです。
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