茶空間がつなぐ、嬉野文化 茶空間がつなぐ、嬉野文化

嬉野と聞いて思い浮かぶのはおよそ700年の歴史を持つ「嬉野温泉」だが、それだけではない。
「嬉野茶」に「肥前吉田焼」。
日本に温泉地は数あれど、このような歴史文化が3つもそろう土地は類を見ないという。
そんな嬉野にお目見えした、五感で味わう“茶空間”。
四季折々の茶畑から、嬉野文化の今を発信する。

取材・文/吉田志帆 写真/池田清太郎

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嬉野と聞いて思い浮かぶのは
およそ700年の歴史を持つ
「嬉野温泉」だが、それだけではない。
「嬉野茶」に「肥前吉田焼」。
日本に温泉地は数あれど、
このような歴史文化が3つもそろう土地は
類を見ないという。
そんな嬉野にお目見えした、
五感で味わう“茶空間”。
四季折々の茶畑から、
嬉野文化の今を発信する。

取材・文/吉田志帆 写真/池田清太郎

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茶空間で“嬉野”にふれる 茶空間で“嬉野”にふれる

茶空間で“嬉野”にふれる 茶空間で“嬉野”にふれる

 今年の茶摘みを終え、鮮やかな緑をたたえる茶畑が山の斜面を覆う。標高約200mの山間部に設けられた茶空間。眼下には嬉野の温泉街、開業したばかりの嬉野温泉駅も眺望する。周囲には鳥のさえずりが響き、そこはかとなくだが、甘く清涼な茶の香りも。担当の茶師に尋ねたところ、数日前にちょうど畑の枝をならしたところだそうだ。
 「嬉野茶」「肥前吉田焼」「嬉野温泉」。嬉野の文化を醸成してきた3つの歴史文化にスポットをあて、スタートしたプロジェクト「嬉野茶時」。キャストはすべて地元住人によって構成されている。「茶空間体験」は、数百年の歴史を持つ茶畑を、農家しか立ち入らない生産の場から文字通り“舞台”へと変貌させた、「嬉野茶時」のなかの一企画。茶会の亭主となる茶師は、これまでは裏方だった現役の茶農家が担う。

天茶台

「副島園」の茶畑の一角に位置する「天茶台」。嬉野には現在、全部で4つの茶空間が。

 きっかけは「旅館の仲居さんの入れてくれるお茶がおいしい」「買ったけれど、家ではおいしく入れられない」という客人の声だった。であれば、それを嬉野茶のことを誰よりも知る農家がもてなす、セレモニーにしたら面白いんじゃないか。会を重ねるにつれて、新たな肥前吉田焼の表現に挑戦する陶芸家、嬉野茶をこよなく愛する菓子職人、それまでは接点のなかった人と人とが緩やかにつながっていった。
 セレモニーでは、茶師が肥前吉田焼の茶器を使って入れる3種の茶を地元のスイーツと共にいただくことができる。設えは茶事さながらだが、嬉野茶の代名詞は普段遣いの煎茶。「足を崩して、楽な姿勢でどうぞ」。抽出を待つ時間は“メッセンジャー”でもある茶師との交流の時間だ。茶のこと、茶畑のこと、茶器のこと、茶菓子のこと。目の前に置かれた一煎の茶になるまでの事柄が、一編の物語となって浮かび上がってくる。
 嬉野の文化が茶の旨みのごとく、ぎゅっと凝縮された唯一無二の空間。飲んだ後も舌の奥に残る優しい余韻に浸りながら、茶の名産地・嬉野における一期一会のセレモニーは終わりを迎える。

  • 茶空間体験
  • 茶空間体験
  • 茶空間体験
  • 茶空間体験

取材時の夏場はグラスで涼やかに。季節ごとの味わいのほか、面白いのが茶師によって味が変化する点。個人農家が多い嬉野では農園によって味の違いが生まれやすい。茶師を変えた飲み比べも「茶空間体験」ならではの楽しみ方だ。

嬉野茶時 嬉野茶時 嬉野茶時

セレモニーでは担当茶師の農園の茶葉が使用される。取材時の茶師は有機栽培の茶園を営む[きたの茶園]の北野秀一さん。(写真右から)一煎目は煎茶「さえみどり」。60℃の低温で入れ、玉露のような旨みを表現する。舌に甘い余韻を残した状態で、二煎目は同じ茶葉の水出しをお茶菓子と共に。清涼な風味が喉を駆け抜けていく。ラスト三煎目、エレガントな印象の和紅茶には地元の茶スイーツを添えて。

嬉野茶時(ちゃどき) 茶空間体験

嬉野市嬉野町下野甲427 副島園天茶台

料金/コンシェルジュによる茶空間体験=1人11,000円(1人の場合22,000円)※予約サイトで予約可能
茶農家による茶空間体験=1人16,500円(1人の場合33,300円) ※メールで予約可能
★詳しくはHP(tea-tourism.com)を確認

嬉野茶の味わいとは? 嬉野茶の味わいとは?

 嬉野茶のルーツとされるのが、釜炒り茶。中国から伝わった陶製の釜を用いて炒った独自の製法で、幕末には世界にも輸出された。さっぱりとした味と香りで親しまれてきたが、現在、伝統的な釜炒り茶の生産はわずか。嬉野でも他の産地同様、深蒸し煎茶が主流となっている。
 嬉野茶はよく、「味濃ゆいお茶」と評される。甘み、旨み、渋み、それぞれが同じボリュームを奏でる均整のとれた味わいだ。茶農家によるとその理由は茶園が広がる山間部特有の肥沃な土にあるという。深くまろやかな嬉野茶の味。それは豊穣な嬉野の大地の味でもある。
 「嬉野茶時」の一員で老舗の湯宿[和多屋別荘]内に店を構える[副島園本店]。ここはそんな嬉野茶を気軽に体験することができる場所だ。スタッフもまたこの茶園の一員であり、畑でのひと仕事を終え、店に立つ。店舗奥に設けられたカフェでは郷土の甘味とともに、湯上りに立ち寄りたいバーでは、お酒との組み合わせを提案する。ここではお点前をすぐ目の前で拝見しながらの茶空間。空間全体を味わう「嬉野茶空間」に対し、個性豊かなお茶そのものに集中できる環境。心ゆくまでどっぷりとお茶の世界に浸ることができる。
 味濃い嬉野茶は飲み手にとっては非常に味わいがいのあるお茶。入れ手にとってはどの個性をフィーチャーするか、表現のしがいのあるお茶ともいえる。双方の探究心をくすぐるクリエイティブな世界観。これもまた、嬉野茶の数ある魅力の一つと知った。

嬉野茶 嬉野茶 嬉野茶 嬉野茶

(左から)淡黄色の釜炒り茶、濃緑色の煎茶、琥珀色の和紅茶、黄金色の烏龍茶。鮮やかな水色にも感嘆する嬉野茶の数々。嬉野では茶葉を伸ばさずに乾燥させるため、勾玉のようにくるんとした形状になることから玉緑茶(ぐり茶)とも呼ばれる。近年は緑茶だけでなく、和紅茶など発酵茶の生産も盛んに。

副島園 副島園 副島園 副島園

水色が映えるよう設計された限定8席のカウンターで、栽培の現場にも精通したスタッフの説明を受けながら一服。家での楽しみ方など、入れ方のアドバイスもしてくれる。取材時の茶葉は名の通りの水色を持つ「さえみどり」。一煎目は氷水で入れて甘みと旨みを抽出。茶菓子といただく二煎目は、ぴったり65℃の湯で苦みを引き出す。茶葉の販売も。

副島園(そえじまえん)本店

嬉野市嬉野町下宿乙738 和多屋別荘内

TEL/0954-42-0210(和多屋別荘) アクセス/嬉野温泉駅下車、タクシー約5分
[副島園茶寮]営業時間/10:00〜18:30L.O. 無休
[BOOKS&TEA 三服]営業時間/9:00~22:00(入場は20:00まで) ※宿泊者は8:00〜22:00 無休
料金/お席料=大人1,100円、小学生550円/宿泊者は無料

副島園 the BAR 副島園 the BAR

煎茶を粉末にし、水出しした濃厚な風味の仕込み茶をビールで割った茶ビール1,100円。茶と合わせることでビールの苦みが和らぎ、茶の持ち味もしっかりと感じられる最高の組み合わせだ。ノンアルの茶メニューも。

副島園 the BAR

嬉野市嬉野町下宿乙738 和多屋別荘内

TEL/0954-42-0210(和多屋別荘) 営業時間/20:00〜24:00L.O. 火曜休

茶スイーツの魅力 茶スイーツの魅力

茶スイーツの魅力
茶スイーツの魅力 茶スイーツの魅力

製法の異なる茶葉の組み合わせはスイーツの特権。濃茶アイスに始まり、締めはほうじ茶ゼリーでさっぱりと。抹茶パフェM920円。茶空間体験でも提供する「茶畑」435円は、緑茶が香るチーズクリーム、ほうじ茶のスポンジには緑茶シロップを染み込ませている。

 老舗呉服店内に構え、「嬉野茶時」でスイーツを提供するパティスリー。店主の澤野典子さんは仕事のかたわらで茶道も嗜む、大のお茶好き。例えば「このお菓子にはここの農家さんのこのお茶」といった具合に、これまで幼い頃から親しんできた嬉野茶の個性を生かした“茶スイーツ”を考案してきた。一つの茶葉から生まれたさまざまな茶の表情が折り重なり、新しい魅力の扉を開く。爽やかな後口。それでいて後を引く味わいに、スプーンを持つ手が止まらない。

うれし庵

うれし庵

嬉野市嬉野町下宿⼄769

TEL/0954-42-0038
営業時間/10:00〜18:00 ⽇曜休、不定休
アクセス/嬉野温泉駅からバス約7分、「ユースポ入口」バス停下⾞、徒歩約4分

肥前吉田焼の窯元へ 肥前吉田焼の窯元へ

肥前吉田焼の窯元へ

茶葉がしっかりと開くよう底面積を広く設計、「SUI」急須4,400円。二重構造で保温効果を高めた「yongo-hingo」カップS2,970円。ワイングラスのように茶の香りを引き立てるデザインの、嬉野の茶師との共同開発により誕生した「Plump」ボルドー2,420円。

 時は戦国時代。吉田を流れる川の底でキラリと光る陶石が発見されたことに始まったとされ、江戸時代に鍋島藩主の奨励で「肥前吉田焼」は栄えた。市の山間部に位置する吉田。集落には個人作家も含め、15ほどの陶所が点在する。[224porcelain]は、辻諭さんが立ち上げた肥前吉田焼のブランド。工房は一般にも開放。目的は「肥前吉田焼を全国に発信するため」だ。吉田では水玉柄の急須をはじめ、白磁の茶器が多く作られてきた。しかし、「決まった様式はないんです」と辻さんは語る。しかしそれは見方を変えると、自由な発想が許される環境ともとれるのだ。3Dを駆使して作陶される辻さんの茶器。絵付けを施さない理由は清白な陶土の美しさを生かすためというが、肥前吉田焼の可能性を秘めた“余白”のようにも思えてくる。「吉田という産地をデザインするつもりでやっています」。次の100年のために。肥前吉田焼、そして辻さんを含む陶工もまた、嬉野の未来にとって欠かせないプレイヤーの一人だ。

224porcelain 224porcelain

224porcelain

[224shop+saryo]嬉野市嬉野町下宿乙909-1

TEL/0954-43-1220
営業時間/10:00〜16:00(土・日・祝は18:00まで) 年末年始休
アクセス/嬉野温泉駅からバス約15分、「嬉野温泉バスセンター」バス停下車、徒歩約5分

column 有田焼と肥前吉田焼の関係とは?

column 有田焼と肥前吉田焼の関係とは?

かつてヨーロッパの王侯貴族に愛された焼き物は、有田焼をはじめ、肥前吉田焼や波佐見焼などを含み、江戸時代に伊万里港から海外に積み出されたことから「伊万里焼」と総称された。有田の赤絵町を中心とした美術工芸品を作っていた内山、その周りで日用食器を作った外山、肥前吉田焼はさらにその周りの大外山と呼ばれるエリアで栄え、波佐見や有田を経由して全国に流通したといわれている。

column 有田焼と肥前吉田焼の関係とは?

もう一つの名物、嬉野温泉湯どうふもチェック!

  • 嬉野温泉湯どうふ
  • 嬉野温泉湯どうふ

嬉野温泉湯どうふ

嬉野市嬉野町下宿乙738 和多屋別荘内飲食店などで提供

TEL/0954-43-0137(嬉野温泉観光協会)

嬉野産の大豆、嬉野の温泉水で煮込んだもう一つの嬉野の名物。遣唐使の時代に豆腐の製法が日本に伝えられ、嬉野で製法に手が加わり、現在のとろける湯どうふが生まれたといわれている。

1300年の歴史を誇る、アートも楽しめる武雄温泉へ

武雄温泉

武雄温泉

TEL/0954-23-7766(武雄市観光協会)
アクセス/武雄温泉駅下車

約1300年の歴史ある温泉。国指定重要文化財の楼門が目印の[武雄温泉 大衆浴場]や旅館でその湯に親しめる。

嬉野温泉詳細マップ

嬉野温泉詳細マップ

武雄温泉詳細マップ

武雄温泉詳細マップ

※新型コロナウイルスの感染状況などによっては、掲載情報が変更となる場合があります。詳しくは、主催者ホームページなどでご確認をお願いします。

※表記のデータ(価格含む)は、2022年9月上旬現在のものです。※時間は原則として、最終受付時間・ラストオーダーを記載しています。

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