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初めての文楽鑑賞をナビゲート!

京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー! 文楽」編集部。
その活動もいよいよ3年目に入りました。
数々の取材を経験して文楽ツウとして成長しつつある文ちゃんが、
今年も楽しく制作過程をリポートしつつ、
皆さんの文楽鑑賞をナビゲートします!
今回は太夫、三味線、人形遣いの三業から、「ハロー! 文楽」
編集部が注目するお三方に直撃インタビューを敢行します。

FUMI CHAN文ちゃん

「文楽って難しそう」という先入観を克服、過去2年の取材を通してすっかりファンになった20代の編集スタッフ。目指すは文楽ツウな敏腕記者!

カバーイラスト/スケラッコ
文楽の演目『新版歌祭文』(しんぱんうたざいもん)より

Hello Bunraku 202013 編集部注目の技芸員に
インタビュー

毎年恒例となった技芸員インタビュー。今回は太夫の豊竹芳穂太夫さん、三味線奏者の鶴澤寛太郎さん、人形遣いの吉田玉彦さんにご登場いただきます。皆さんが技芸員になられた経緯から、舞台の上で大切にされていること、演じてみたい演目に至るまで、じっくりお話を伺いました。
※「芳」は草冠が++

profile

豊竹芳穂太夫さん

TOYOTAKE YOSHIHODAYU

1976年、大阪府生まれ。2003年、八代目豊竹嶋太夫に入門。『義経千本桜』(よしつねせんぼんざくら)の『すしやの段』をひとりで語るのが目標。「太夫とかけて詐欺師と解きます。その心は、どちらも“かたる”でしょう!」など、SNSで趣味のなぞかけを発信中!※「芳」は草冠が++

「太夫は“情”を語るのが務め。 芝居心と技のバランスが大事」。

まずは太夫の豊竹芳穂太夫さんにお話を伺います。よろしくお願いします!

よろしくお願いします。

芳穂太夫さんはどういうきっかけで太夫になられたんですか?

もともと演劇が好きで、自分でも演じたい気持ちがありました。23歳のときに三代目市川猿之助さんの歌舞伎のワークショップに参加して古典芸能の道へ入り、歌舞伎の研修生になったのですが、その後文楽に夢中になって、文楽の太夫を志しました。

歌舞伎から文楽の世界へ!
太夫さんのどんなところに魅力を感じられたんですか?

歌舞伎と文楽は共通する演目が多いので、研修の一環として文楽の見学がありましたし、五代目の豊竹呂太夫さんが講師となって太夫のお稽古をつけていただく研修もあり、少しずつ興味を持つようになったんです。ひとりで何役も語り分けたり、義太夫節独特の節回しや求められる表現の幅の広さ、奥深さに魅力を感じました。

確かに…。太夫さんの語りはとても奥が深そうです。

最初は「声を大きく、節を正確にたどる」という基本から始まります。それができるようになったら、今度はそこに物語の内容と感情をのせていく。これが「情を語る」ということなのですが、感情を込めたら良いということでもない。感情を込めすぎるとクサくなりがちですし、声の響かせ方などの技巧ばかりを考えると、今度は物語の内容が伝わりづらくなってしまう。テクニックと芝居心のバランスが大事なんです。

そのバランスはどうやって磨かれるんですか?

常にバランスを意識してほかの方の語りを聴くと、毎回発見と学びがあります。太夫は「自分の持っている力しか聴くことができない」とよく言われますが、まさにその通り。自分が成長していくと吸収できることが増えてくる。だから、今こそ師匠の現役のときの語りを生で聴きたいなぁとよく思いますね。

Check! 道具を見せてください!

  • 腹帯とオトシは「ここ一番で力を込めるときに欠かせない」道具。

  • 床本はご自身で手書きすることが多い。師匠から譲り受けることも。

  • 爪先立ちをサポートする尻引。「これが無いと長時間語れません」。

生涯学び続ける太夫さん!

「自分が成長すれば吸収できるものが増えていく」というお言葉に、芸の道の果てしなさを感じました。これからは芳穂太夫さんをはじめ、太夫さん一人ひとりの進化を感じることも、観劇するときの楽しみになりそうです。

profile

鶴澤寛太郎さん

TSURUZAWA KANTARO

1987年、奈良県生まれ。1999年、祖父である七代目鶴澤寛治に入門。名曲で知られる『曽根崎心中』(そねざきしんじゅう)の『天神森の段』の「お初」をいつか弾きたいと思っている。趣味は食べ歩きで、コーヒーは豆から挽く派。日本酒やワインを愛する左党でもある。

「人物の感情から状況描写まで、 三味線は音で物語を表現します」。

続きまして、鶴澤寛太郎さんです。よろしくお願いします!

よろしくお願いします。

早速ですが、寛太郎さんはどういうきっかけで三味線奏者になられたんですか?

祖父が同じ三味線奏者(七代目鶴澤寛治師匠)でした。よく祖父の家に預けられていまして、お弟子さんが稽古にいらっしゃるので、三味線の音は自然と耳にしていました。6歳のときに、芸は身を助けるということで、お琴を祖父に習うことになりまして。そのうちに文楽の舞台を観るようになって、三味線もいいなぁと思い始め、12歳で祖父のもとに入門しました。今考えると、お琴も稽古のたびにお小遣いをもらいながらやっていたので(笑)、祖父なりの教育の一環だったのかなと思います。

若くして入門されたんですね! すでに20年近く舞台に出られていますが、三味線奏者さんはどういったことを意識して演奏されているのですか?

弦楽器ってボーカルの伴奏というイメージが強いかもしれませんが、三味線は太夫さんが語っているのと同じスタンスで、物語を表現するように演奏します。人物の年齢や性格、社会的な立場やそのときの感情、風が吹いているなどの状況描写に動物や物の音まで、あらゆるものを音色で表現します。ですから、自分なりに物語を解釈して弾き方をイメージしないといけません。撥(ばち)の使い方や間の取り方ひとつ、「なぜそういう弾き方をするのか」理由を求めながら演奏しています。

音色で人の感情や状況の移り変わりを表現するなんて⋯すごい! 三味線の表現を高めるために、お稽古以外で意識をされていることはありますか?

三味線を演奏することが常に頭にあるので、生活の中で着想を得ることはありますね。最近は、三味線奏者もある程度上手く歌が歌えるほうがいいと思っています。身体を楽器のように響かせられるほうが、三味線もよく鳴るような気がして。実験的にそういうトレーニングを取り入れてみようと考えています。

Check! 道具を見せてください!

  • 「こう見て、棹の形状が少しS字になっていると鳴りがいいんです」。

  • その日の湿度や演目によって、鉛入りの駒の重さを変えて調弦する。

  • 爪で絃を押さえるので溝ができることも。入念なケアを心がけている。

身体を楽器のように響かせるという発想に驚き!

既成概念にとらわれず、新しい方法を探究し続ける寛太郎さん。「もし年齢を重ねることで演奏が上手くなるなら、早く年を取りたい」という発言も印象的でした。三味線に人生を懸けている姿勢がかっこいいです!

profile

吉田玉彦さん

YOSHIDA TAMAHIKO

1989年、滋賀県生まれ。2009年、吉田玉也に入門。趣味はスポーツジムで体力作りと腰痛対策を兼ねたボルダリング。今後演じてみたい役柄は『曽根崎心中』(そねざきしんじゅう)の徳兵衛のような、なよなよとした二枚目男。「自分ならどう遣おうか、イメージが膨らんでいます」。

「人形遣いは3人の呼吸が大切。 役割分担で人形を際立たせます」。

最後は人形遣いの吉田玉彦さんです。よろしくお願いします!

よろしくお願いします。

玉彦さんはどういうきっかけで人形遣いになられたのでしょうか?

家族に連れられて、小さい頃から文楽を観ていました。それで高校生のときに進路を考えていると、母が研修生募集のチラシを持って帰ってきたんです。世襲制の世界だと勝手に思い込んでいたので、こんな方法があるんや! と驚いて。思いきって高校を2年で中退して入りました。それから研修で三業をひと通り学んで、今の師匠である吉田玉也に「人形をやってみないか」と誘われまして。そのときのことを師匠に聞くと、単純に人手が足りなかったという事情もあったらしいのですが(笑)、「これも何かの縁だな」と人形遣いを目指すことにしました。

師匠とのいい出会いがあったんですね! 今日は黒衣の衣裳で来ていただきましたが、頭巾をかぶっていても周囲は見えているのですか?

新しい頭巾を用意してきましたので、ぜひかぶってみてください。

いいんですか!? では失礼して…。うわぁ、視界がすごくクリアです!

麻素材を使っているので、通気性もいいんですよ。

貴重な体験をありがとうございます! 足遣いや左遣いの方は頭巾をかぶっていてお顔が見えないことがほとんどですが、舞台上ではどんなことを考えているんですか?

足遣いのときは(主遣いの)師匠にいかに合わせるかを考えています。特に、師匠の呼吸をみることが大事。例えば、息を吐いている最中には動作に入ることはないんですよ。

主遣いの方からの合図に反応されるだけじゃなくて、呼吸で動き出しを察知されているんですか! 左遣いの方も同じですか?

左遣いは主遣いから目を離さないことが大事です。それと同時に、介錯人(小道具の受け渡しなどをする黒衣)から小道具を受け取ったり、人形の目が半開きになっていることに気づいたら主遣いに知らせたり。視野を広く保つことも左遣いにとっては重要な役目です。

それぞれの役割で考えられていることが違うのですね。主遣いの方は頭巾をかぶらずにお顔を出されていますよね。なので、どんな表情をされているのか、つい見ちゃいます(笑)。

人形遣いは原則として自分の顔の表情とか体の動きを出さないようにするのですが、気合いが入ると顔に出ちゃうときもありますので、遣っている側としてはあんまり見てほしくないですね(笑)。ぜひ、舞台で躍動する主役の人形に注目していただけたらと思います。

Check! 道具を見せてください!

  • 手袋や頭巾を自作するなど、針仕事が多いため裁縫道具は肌身離さず。

  • ハンガーと手ぬぐいで自作した顔あては頭巾と顔の密着を防ぐため。

  • 人形から首(かしら)が抜けないよう留める栓。自分で削って作る。

あうんの呼吸だから、3人で美しく操れるんですね。

足遣いの方は中腰の体勢がきつそうですが、主遣いの方の呼吸にも集中していたなんて…大変! でも玉彦さんが主遣いのときは、師匠や先輩たちの呼吸を参考にされると聞いて、脈々と芸が継承されているのだと感じました。

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初春文楽公演のみどころ、
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※この記事は2020年12月24日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。 取材・文/福山嵩朗 写真/バンリ イラスト/スケラッコ