「ハロー文楽」編集部

文楽をもっと気軽に学ぶ!

こちらは京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」編集部。
取材を通して学んでいったことをご紹介し、
完成したフリーペーパーは、
2018年度版を第5回に、
2019年度版を第9回に掲載しています。
そして、10月27日から2020年度分がスタートします!

FUMI CHAN文ちゃん

敷居が高く感じていた初心者から、少しずつ文楽にはまっている新米編集者。まだまだ、知らないことだらけ。

GEN CHANゲンちゃん

名作『義経千本桜』で、源九郎という名を授かった狐忠信を尊敬するキツネくん。ちょっぴりイタズラ好き。

HelloBunraku06 イヤホンガイドの名物解説員に聞く、その裏側

今年は、相棒のゲンちゃんとフリーペーパーを作るため冬まで編集を頑張ります! さて、何から取材しようかな。

今回は、解説のプロに取材をお願いしてきたよ! イヤホンガイドの高木秀樹さん。落ち着いたトーンが耳なじみ良く、ためになる情報がいっぱいで、一度話を聞いてみたかったんだ~。

…もう決めていたのね。そういえば、いつも謎なんですけれど、なんでイヤホンガイドって、あんなに解説のタイミングがいいんでしょう?

そこらへんも聞いてみよう!

イヤホンガイドって?

公演内容に合わせて、舞台の内容を解説してくれる同時音声ガイド。あらすじだけでなく、配役、衣裳、道具、効果音などについても説明してくれ、ストーリーの理解度を高めてくれる。料金は700円で、保証金1,000円が必要(受信機返却時に、返金)。

TAKAGI HIDEKI 高木秀樹さん

文楽研究家。文楽・歌舞伎のイヤホンガイド(同時解説放送)の解説員。テレビの歌舞伎・文楽の劇場中継、副音声解説としても活躍。著書に『文楽手帖』(角川ソフィア文庫)。

今日はよろしくお願いします! 早速ですが、高木さんはなぜ、イヤホンガイド解説員の道に進まれたのですか?

私は東京の下町の生まれですが、松竹で働く親戚の影響で、小学生の頃から歌舞伎も落語も大好きで。どうやら芝居好きのDNAが受け継がれたようですね。大学時代は法学部に通っていましたが、歌舞伎で義太夫、三味線ばっかり詳しくなるものだから、教授には「方向を間違えて邦楽部にいっちまったな」とあきれられる始末で(笑)。

確かに、邦楽ですもんね! そんな若い頃から見られていたら、むっちゃ詳しくなりそう。

そうなんです。もっと知りたいという思いから、イヤホンガイドを創設された古典芸能評論家の小山觀翁先生の歌舞伎鑑賞サークルに参加するようになり、ついにはイヤホンガイドのアルバイトを始めました。最初はロビーで貸出を担当していましたよ。

そこで経験を積まれ、解説者としてデビューされたのですね。

初解説は1990年、東京の国立劇場の文楽公演でした。この頃にはすっかり、文楽にのめり込んでいましたね。文楽は歌舞伎の原作になっている演目も多いんです。例えば『仮名手本忠臣蔵』、それから『義経千本桜』も。両者は切り離せない関係なんですよ。

ためになるなあ。ところで、いつも絶妙なタイミングで解説が流れるのですが、まさか毎日、生解説ではないですよね!?

もちろん、事前に収録しています(笑)。それを当日の芝居に合わせ、スタッフが手動で1つずつ再生しているんです。太夫のセリフとセリフの間、コンマ何秒の再生のタイミングがとても重要。これが上手くいくとライブ感を感じられるわけです。

再生にも「芝居心」がいるわけですね! 台本を拝見すると、さらによくわかります。場面ごとにかなり細かく指示が入っていて、恐れ入りました!

高木秀樹さん自作の解説原稿
イヤホンガイド台本。こまめな解説挿入で、
臨場感のある解説が生まれる

ちなみにお話されている内容って、どなたか専門の方が原稿を準備してくれるのですか?

いえいえ。自分の言葉で伝えるため、すべて準備しています。担当の演目が決まると、過去の上演DVDを見ながら、大枠の解説原稿を書いて、さらに通し稽古を見て、演者さんならではの見どころを加えて調整して収録。時には舞台初日を見た後に、解説を収録し直すこともありますよ。

徹底して解説の質を磨き上げるんですね。もはやひとつの語りの芸ですね!

上演中の解説は芝居に差し支えないよう、時間が限られております。その中でたくさん伝えたいことがありますが、饒舌に語りすぎるとお客さんの意識が舞台からそれてしまうので、それはご法度。必要な情報をさりげなくスマートに提供する。この仕事は究極のサービス業だと思っています。

確かに長すぎず、短すぎずでスマート! そういえば、上演前と幕間だとたっぷり解説がありますよね!

こちらは時間に余裕があるので、物語の時代背景や一幕の見どころ、豆知識を存分に。文楽は江戸時代が舞台の演目が多く、現代と異なる文化や慣習もたくさんあるので、予習に役立ててほしいですね。

ハイ! ちなみに、鑑賞のプロでもある高木さんは普段、文楽をどんな風に楽しまれていますか?

お気に入りの演目を何度も見るのも好きですね。見るたびに感動したり、泣いたりするシーンが違うのです。

ええ!? あらすじを知っているのに、飽きないのですか?

自分が成長したり、年を重ねることで感情移入する登場人物やシーンが変わるんですよ。例えば、恋のひとつもしたことがない人が心中シーンを見てもまるで共感できないでしょう。でも一度でも、失恋や叶わぬ恋をしたら感じ方が変わるはず。それと同じです。

はぁ…僕はもっと恋をして経験を積まなくちゃ!

ほんとうに泣けるところが変わってきますから。それから演者さんのかけ出しの頃と、経験を積んだ後では同じ役でも演技の凄みがまるで違う。若い頃に身につけた技を時間をかけて熟成させることで、ウィスキーのように深みを増すこともあるのです。

奥が深いなあ~。お気に入りの技芸員さんを見つけて、成長を追いかけるのも面白そう。ツウな楽しみ方も教えてくださり、ありがとうございました!

取材こぼれ話、ここにも驚きました!

江戸時代を舞台に風習は違えど、人情は変わらない。だから古典が苦手な私も、予備知識さえあれば、お話が伝わってくるというひと言に納得。これからもイヤホンガイド、借り続けます!

朗らかで、大変素敵な方でした。会話のような気持ちで聞いてほしいから、原稿は全て暗記しているというのもスゴイ。だから、こんなに分かりやすいんですね!

※こちらの記事は2019年10月21日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。
取材・文/山口紀子 写真/竹田俊吾 イラスト/スケラッコ