「ハロー文楽」編集部

文楽をもっと気軽に学ぶ!

こちらは京阪神エルマガジン社で立ち上がった、
文楽の初心者向けフリーペーパー「ハロー!文楽」編集部。
取材を通して学んでいったことをご紹介し、
完成したフリーペーパーは、
2018年度版を第5回に、
2019年度版を第9回に掲載しています。
そして、10月27日から2020年度分がスタートします!

TARO SENPAIたろう先輩

文楽取材を数多く経験し、熱心な文楽ファンの30代編集者。一番好きな演目は『女殺油地獄』。

FUMI CHAN文ちゃん

「文楽って難しそう」という先入観を克服するため編集部に自ら志願した20代。でも、完璧なる初心者…。

HelloBunraku04 第4回 文楽を支える女性たち、その魅力とは?

文楽を鑑賞して、ウラ話も伺って、どんどん詳しくなってきた気がします。でも、きっと文楽の世界って技芸員さんはみんな男性だし、オトコの世界ですよね!

いやいや、文楽の裏方として最近では女性も働いているんだよ。

本当ですか!? どんな女性がいらっしゃるのか気になりますね。もしかして、すごーくマッチョな方とか?

じゃ、実際に会ってみる? 文楽の大道具を手がけているのは「関西舞台」という会社で、今日は公演に向けて舞台の設営をしているはずだよ。

  • 力仕事もどんどんと、こなしていく丸岡加奈さん

  • 力仕事もどんどんと、こなしていく丸岡加奈さん

うわー! 舞台が作られていく様子を初めて見ました。足袋を履いて作業しているんですね。さすが伝統芸能って感じがします~。

僕も初めて見たよ! セットチェンジのために背景の幕は何重にも吊るされているんだね。ほら、太夫と三味線が座る床もみるみるうちに出来上がってくよ。あ、そろそろお昼休憩に入るみたい。せっかくだから、女性スタッフの方にお話を聞いてみよう。

丸岡加奈さん

Profile

入社6年目。背景幕の絵を描く“背景師”として活躍中。会社のHPを管理する広報でも。

安井千佳子さん

Profile

2018年に関西舞台の製作課に入社。仕事では背景幕を、休日は油絵で人物画を描いている。

あ、はじめまして。いきなりなんですが、お二人はずっと文楽が好きだったんですか?

いえ、実はよく知らなかったです(苦笑)。以前はOLをしていたんですが、もっと自分が好きなことを仕事にしたくて。私は宝塚歌劇のファンだったので、舞台の裏方をやりたいと思って専門学校に入ったんです。そこで大道具の講師として指導に来てた、関西舞台の方に「手伝いに来るか?」と声をかけていただきました。

私も前は別の仕事をしていました。でも、もともとバレエやミュージカルをしていて、舞台は好きでした。高校と大学で美術を専攻していたので、転職を考えているときに、関西舞台の方を紹介していただいたんです。

そうなんですね!意外でした。でも、お二人とも演劇や舞台はお好きだったんですね。

お二人はどんなお仕事をされているんですか?

私たちは大道具の中でも背景の絵を描くのが担当です。「背景師」や「絵屋」と呼ばれています。

あの大きな幕を描いているんですか。すごーい! でも、さっきまでは舞台のセットを組んだり、電動ドリルを使ったり、力仕事をされてましたよね?

ウチの会社は少人数なので、専門分野に分かれつつ、全員で舞台の設営もするんです。

なんか大道具さんって、ガタイのいい方々がたくさんいて、怒号が飛び交ってるイメージでしたが…。わりと黙々と作業されてるんですね。

文楽の舞台には基本的に決まりの形式があるので、それが分かっていれば最小限の指示で作業できますね。また、図面や道具帳と呼ばれる舞台の縮図を見て、事前に完成イメージと設営の段取りを共有しています。

私はまだまだ分からないことがたくさんありますが、先輩方はとても優しくフォローしてくださいます。

  • 入社から約半年、周囲の状況を確認しながら作業する安井千佳子さん

  • 入社から約半年、周囲の状況を確認しながら作業する安井千佳子さん

設営ができたら大道具さんの作業は一旦終わりですよね。次のお仕事は公演後の撤収ですか?

いえ、実は、大道具は上演中も舞台袖にいるんです。場面ごとの道具転換や、芝居中に家のセットの障子を開けたり、川の流れを表現するために布をはためかせたりしてまして…。あれって人形遣いさんがされていると思われがちですが、あの黒衣は大道具なんです。舞台袖で床本を見ながらタイミングを計ってます。

えーー!! ほんとですか?じゃ、舞台を組み立てて終わりじゃないんですね。ということは、自分たちが作った舞台を観れないんじゃ…?

本公演のときは交代で休むので、休みの日は観に行ったりしますね。

お休みの日に、初めて客席から舞台を観たらすごく綺麗で、自分が今までやってた転換は客席から見たらこう動くんだ、というのが知れておもしろかったです。

個人的にはどの演目がお好きですか?

「曽根崎心中」を観たときは泣きそうになりました。魂を感じるぐらい、人形が生きてるみたいに見えて。「新版歌祭文」の野崎村の段も好きです。ドロドロしたラブストーリーで、現代の私たちにとってすごく斬新でおもしろかったです。

文楽の面白さがよくわからなかったバイト時代に、スタッフとして本番についた「桂川連理柵」の帯屋の段がすごく印象に残ってます。太夫さんの語りや人形の動きによって、客席からどっと笑いが起こって。「文楽って笑っていいものなんだ」と初めて魅力に気付きました。「曽根崎心中」も好きですね。

確かに「桂川連理柵」はほんとにおもしろかったです。次は、「曽根崎心中」が観たくなりましたね、たろう先輩!

これからは「曽根崎心中」の公演情報をチェックしないとね! お二人ともお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました!

仕事道具を見せてもらいました

  • なぜ草履なの?

    舞台には設営前のパネルが横たわっていたり、土足で上がれないところがあるので、パッと脱げる草履が便利みたい。草履は自前だよ!

  • 必需品は?

    電動ドライバーや金槌、バール、メジャー、ニッパー、カッターナイフなどが腰袋に入ってる。釘は長さの違うものが3種類あったよ。

お話を伺って、次に舞台を観るときはまた違った視点で楽しめそうです。

僕も! 障子を閉めるタイミング、波のゆらめき…いろんな人が関わってるからこそ、人形たちがリアルに生きているように感じられるんだね。次回でいよいよ最終回、フリーペーパーや1月の初春公演についてもお伝えするよ。

※こちらの記事は2018年12月4日に掲載された情報です。取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。
取材・文・監修/福山嵩朗 写真/バンリ イラスト/スケラッコ