文楽解説員に聞く!初春文楽公演の見どころ、聴きどころ。

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文楽解説員に聞く!初春文楽公演の見どころ、聴きどころ。

2021.12.27 update

vol.05

※この記事は2021年12月27日に掲載された情報です。
取材時から内容が変更している場合がございますのでご了承ください。

Contents

大阪で年6回ある文楽公演の中でも
1月3日から始まる初春文楽公演は、
初詣に行かずとも
めでたい気分が味わえる特別仕様!
そんな初春文楽公演の魅力を、
イヤホンガイドの名物解説員である
高木秀樹さんにオンラインで教えてもらいました。

1初春文楽公演ならではの
仕掛けとは?

まず劇場のロビーに尾頭付きの鯛がね、二尾にらみ合うように飾られます。これは上方の風習で「にらみ鯛」という縁起物。ご近所の黒門市場から奉納されて、はじめは鯛をにらむだけで食べず、神様や仏様にお供えするという意味があります。同じく舞台の上にも干支の書き初めとともに張り子のにらみ鯛が飾られています。劇場玄関には門松、太夫と三味線が並ぶ「床」と呼ばれる舞台には鏡餅が置かれ、いたるところで粋な演出を目にすることができます。催しとしてはコロナ禍でこのところ中止されていますが、通例では1月3日の公演初日、第一部の開演前には劇場の前で技芸員が挨拶をして、文楽人形が鏡開きをします。さらに中日の1月7日まで、幕間で手ぬぐいまきも行われます。若手の技芸員が「今年もよろしくお願いします!」と客席に向かって手ぬぐいを投げるので、再開された折はゲットしてみてください。

2020年の初春文楽公演の装飾。張り子の鯛は全長約3m。

2第一部の見どころ、聴きどころ

第一部は『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』と『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』の二本立て。まず『寿式三番叟』はお能の『翁(おきな)』をもとにした作品。華やかな踊りの、おめでたい演目です。「翁」という神に近い存在が、これから1年間世界が平和で、国が豊かで、何事もなく健康で暮らせるようにと我々に代わってお祈りをしてくださる。その神事を見るだけで初詣に行った気分になります。翁の人形は人間国宝の吉田和生さんが遣います。
続いての『菅原伝授手習鑑』は文楽三大名作の一つ。菅丞相(かんしょうじょう・菅原道真)が濡れ衣を着せられ九州・大宰府へ左遷される事件がもとになっています。長い物語で全部やろうとしたら1日かかるものを、今回は『寺子屋の段』を中心に抜き出して上演します。舞台となるのは、菅丞相の元家臣・武部源蔵(たけべげんぞう)が営む寺子屋。ここで菅丞相のご子息である菅秀才(かんしゅうさい)をかくまっています。そのことを政敵・藤原時平(ふじわらのしへい)方が知り、源蔵に菅秀才の首を渡せと迫ってきます。源蔵としては菅丞相の若君はとても殺せない。誰か身代わりにできればと考えた末、新入生の小太郎の首をはねて差し出す……という内容です。
見どころはその首が菅秀才の物かどうかを確かめる首実検。実検役は時平方の松王丸。周囲が固唾を呑んで見守るなか、松王丸の左には菅秀才の顔を知らない時平方の春藤玄蕃(しゅんどうげんば)、右には身代わりのニセ首を差し出した武部源蔵。左右から視線を感じ、松王丸の目がギョロギョロと左右に。心の揺れが視線で感じられます。こういった人形の表情を見るとまた深い鑑賞ができますよ。ぜひオペラグラスを持って行ってくださいね! また最後、「いろは送り」と呼ばれる名場面は、人間国宝で、先月文化功労者に選ばれた豊竹咲太夫さんが語ります。

3第二部の見どころ、聴きどころ

『絵本太功記(えほんたいこうき)』は、本能寺の変で謀反を起こした武智光秀(たけちみつひで・実説の明智光秀)を主人公にした物語です。上演される『尼ヶ崎の段』は、本能寺の変から8日後の6月10日の出来事。「十段目」とも呼ばれています。光秀の母さつきは主君を殺すという不忠を働いた息子を許せず、兵庫尼ヶ崎で暮らしていました。そこへ旅の僧が一夜の宿を求めてきます。さつきは迎え入れ、風呂を僧に勧めると、僧が風呂に入るやいなや光秀が家に押し入り、風呂場めがけて竹槍を突き刺します。光秀はこの僧こそが主君・尾田春長(おだはるなが・実説の織田信長)の仇討ちを目論む真柴久吉(ましばひさよし・実説の羽柴秀吉)に違いないと尾行していました。しかし叫び声を上げて風呂場から転がり出たのは母のさつき。さつきは我が子に主君を殺した罪の重さを思い知らせるために、わざと自分が犠牲になったのです。さらにそこへ、重傷を負った息子の十次郎が戻り、味方の敗戦を伝えます。暴君春長を討ったのは天下のため、と己の正義を信じていた光秀ですが、とうとう涙を堪えることができず……。「さすが勇気の光秀も、親の慈悲心、子ゆえの闇、輪廻の絆に締めつけられ、こらへかねて、はらはらはら」と大泣きをしてしまう、大オトシとなります。この語りで悲劇はクライマックスを迎えます。光秀の人形を遣うのは人間国宝の桐竹勘十郎さんです。勘十郎さんは普段女方(女性役)が多いですが、平成15年に三代目桐竹勘十郎の襲名披露公演で遣ったのがこの武智光秀でした。思い入れのある演目、ぜひご注目ください。

『尼ヶ崎の段』は文楽好きなら一度は語ってみたい有名曲。高木さんも三味線の演奏とともに語ったことがあるそう。

4第三部の見どころ、聴きどころ

第三部は『染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)』と『戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)』の二本立て。『染模様妹背門松』は油屋の娘お染と丁稚久松の心中事件を題材にした「お染久松物」の作品です。身分社会の江戸時代で、大店(おおだな)の令嬢と奉公人の恋はあってはならないもの。しかし二人は愛し合い、お染は身重に。そんななか許婚との縁談が進み、思い悩むお染は久松とともに心中します。見どころは質店の段。久松の父・久作が二人に道ならぬ恋を諦めさせようと、久松の奉公先にやってくる場面です。久作は、冬場も木綿の足袋で働く我が子を思い、体が冷えないようにと革足袋を買ってきた。しかし、言葉荒く父を追い返そうとする久松に腹を立て、奉公先の娘と嫁入り前に恋仲になるような不義を働く者に履かせるために買ったのではないと、その革足袋で久松を打ち据えます。通称「革足袋」と呼ばれる見どころです。今回この段を竹本千歳太夫さんが語ります。ご注目ください。初春文楽公演ではこういった悲劇が案外多い。それはお正月に芝居を見に来る人はだいたい幸せな人。あくまでもお芝居として、観ていられるからです。続いての『戻駕色相肩』は廓(くるわ)を題材にした華やかな演目。太夫と三味線がずらずらと並び賑やかにご覧いただけます。『染模様妹背門松』がとてつもない悲劇なので、フルコースの後のお口直しのようにお楽しみください。

5初心者が楽しむためには?

劇場では公演プログラムが販売されていますし、イヤホンガイドの貸し出しもありますので、ぜひご活用ください。イヤホンガイドは舞台の進行に合わせて見どころや時代背景を解説するので、物語に対する理解をより深められます。私自身、解説員として心がけているのは、予備知識の無い、初めて観る方でも見どころ聴きどころを逃さないようにタイムリーに解説することです。懇切丁寧に説明しますが、ある程度は自由に楽しんでいただきたいので、解説しすぎないことも意識しています。「初めて文楽に来たけど全然わからなかった」「もう二度と来るか!」。そういう思いだけはして欲しくない。文楽初心者の方が、この深く楽しい世界に入り込むきっかけのひとつでありたい。そういった気概で務めています。

「商業演劇は東京中心ですが文楽の本場は大阪。初春文楽公演は大阪でしか楽しめません」

文/福山嵩朗 写真/竹田俊吾

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