第83回 美術館・博物館が好きな方はぜひLAへ!
(引き続き思い出しよう知らんけど日記)
3月☆日つづき。
ロサンゼルス現代美術館(MOCA)→ウォルト・ディズニー・コンサートホール→郊外のパサデナにあるノートン・サイモン美術館、というコースで巡る。現代美術館は、改装中ということもあってLACMAに比べるとこぢんまりと地味に見えるのやけど、20世紀のアメリカ現代美術が充実してるのがうれしい。リキテンスタインとかラウシェンバーグとかマーク・ロスコとか、わたしが10代の頃に「世の中にはこんなんがあるんや、かっこええなあ」と視界を広げてくれた人たちの作品や世界の見方をちょっと変えてくれるような作品が展示されてて、美術に出会った頃のわくわく感がよみがえる空間でした。ミュージアムショップもかなり充実。自分の家で使いたいもんがいっぱいあったけど、持って帰るのが難儀そうやから断念(未だに心残り。無理してでも買えばよかった……)。ディズニーホールは銀色の建物がウルトラマンの怪獣(ブルトン)に似ててすごい目立ってる。中には入ってないのやけど、屋上庭園があって常春な感じに南国の花が咲きほこってて楽園感満載。そういえばロサンゼルスの春っていつなんやろ。車で40分くらいのパサデナは、山に囲まれててだいぶ雰囲気が違う。郊外の高級住宅地という感じ。ノートン・サイモン美術館はこの日は午後5時から無料でかなりのにぎわい。モネっぽい池を囲む庭園には彫刻が点在し、カフェもある。ドガは絵も彫刻も売るほどようさんあるし、マティスやピカソもちょっと見たことないタイプの絵が揃ってて、ノートンさんなのか運営してはる人なのかわからへんけど、コレクターの個性がしっかり出てるセレクトで、おもしろかった。地下にはヨーロッパのルネサンス~近代美術、キリスト教の絵画、アジアの古美術までばーんと充実。1周するだけで体力使う。うーん、こんな規模の美術館がいくつもあるって、しかも、今年の秋にはディズニー・ホールの並びにブロード現代美術館ができるらしいし(実業家・慈善家で美術コレクターのブロードさんが1億ドルかけて建設)、LAどないなってんねん! やね。
3月☆日
LAの美術館といえばLACMAとともに名前が挙がるゲティ・センターへ。UCLA近くの山の上に、大富豪のゲティさんの遺産で作られたこの美術館。広大な敷地に1つでも十分立派な美術館規模のパビリオンが5つ? 6つ? 企画展が4つくらい常にやってて、それがぜーんぶ無料。美術館に行くための無人トラムも無料。ゲティさんの遺産の何%かを毎年使わなあかんて決まってるそうで、むしろ予算余るぐらいやとか。ビリオネア恐るべしやなー。1人やったし、カフェもレストランも混んでたので、オレンジジュースとベーグルを買って木陰のベンチで。ホテルは食べ物ぼったくり価格やったけど、ここはさすがのゲティさん、ほぼコンビニ価格。5$ぐらい。
この日もLAは快晴で、これぞ「抜けるような青空」。雲一つない真っ青。からっと快適な空気。隣のテーブルでは、60歳ぐらいのご夫婦が、ピクニックバスケットからワイングラスを出し、ポテトチップスやなんかをささっと盛りつけ、ランチタイム。なんやこれ。こんな優雅な時間を過ごしてる人が、この世にいるのやなあ。人生が二度あれば、めっちゃ勉強してアメリカンドリーム目指すわー。……いうのはアレとしても、こんな世界がほんまにあるのや、と目の当たりにするのは大きい経験やねえ。アメリカは問題もいっぱいあるけど、1、2週間旅行しただけやし、たまたまええとこばっかり連れてってもらったわたしなんか全然何もわかってないやろうけど、文化的な豊かさとか勉強熱心さとか、目に見える形であるのは確かで、こうなりたい、あの場所を目指したい、とか、勉強したい、稼ぎたい、とか、なにかしら「意欲」をかき立ててくれる場所ではあって(その究極が「大富豪になって美術館を作る」なんかも)、そんな気持ちになれるのはええことやなと思う。貧富や人種の差や問題を極端な形で見ることができるというのも含めて、外国、文化の違うとこに行ってみるのはやっぱりだいじやね。
3月☆日
LA滞在も早や7日目。去年来たときに行き損ねて気になってたジュラシック・テクノロジー博物館へ。
『ウィルソン氏の驚異の陳列』という本にもまとめられてるのやけど、普通の家を改装したような薄暗い部屋に謎の標本や模型がいっぱい。ジューヌ・ヴェルヌばりの宇宙船、初めて宇宙に行った犬の肖像画(『ベルカ、吠えないのか?』のベルカもいます)、病気の怪しげな治療器具、奇妙な生き物、ホログラムが浮かび上がるジオラマ、などなど、映画『月世界旅行』の世界がそのまま広がったというか、どこまでがほんまで、どこまでが妄想で、どこまでがだまそうとしてるのか、現実と幻像が混じり合ったアナザーワールドがてんこ盛りで展開されてる。
紅茶とお菓子を出してくれるサロンがあったり、屋上では哀愁漂う楽器を演奏してる人がいるしちょっと変わった鳥がうろうろしてるし、フィクションの世界に迷い込んだ体験ができる。その前日に見たシンドラー・ハウスていう1920年代の建築もそうなんやけど、一見ただの倉庫か空き家みたいなとこが、入ってみたら個人の趣味と夢が広がってるっていうのは、ロサンゼルスらしいところやな、と滞在してみて思う。これでもようさんある美術館のほんの一部で全然まわりきらんかった! ロサンゼルスに行かれた際はぜひ美術館・博物館へ、というか、美術館・博物館が好きな方はぜひロサンゼルスへ! ただし、車を確保しないと大変です。
ところで、数日前にサンタモニカあたりに行ったときは、カラフルなパーカにショートパンツみたいないかにも西海岸ファッションな人がほとんどやったけど、このジュラシック博物館にいたお客さん、『ゴーストワールド』のイーニドばりに黒髪・黒縁めがね・おかっぱとか、革ジャンにチェックのミニスカートのパンクスタイルとか(彼氏もほぼ同じ)、わかりやすくサブカルで、LAでも日本でも、趣味が似てるってわかりあえるよね、と感心しました。いや、まじで、国の違いより文化の違いやんな、と思うことよくある。
3月☆日 つづき
飛行機に乗って日本へ。お昼の13時発の飛行機で、時差の関係でわりにすぐ消灯やってんけど、寝れそうもないよな、と思って、成田まで10時間……映画5本見れるな、と実行することにしました。『バードマン』『インタステラー』『イミテーション・ゲーム』『真夜中の五分前』『紙の月』。どれもおもしろかった。『バードマン』は引用がレイモンド・カーヴァーやし創作を仕事にしてる人には非常に身につまされる映画。娘役のエマ・ストーンかわいいっていうか、あんな大きい目って眼球が違うのやろうか。『イミテーション・ゲーム』のキーラ・ナイトレイ演じる女性数学者がよかったね。『紙の月』のラストあと5分、ていうとこで成田に着陸。わー、肝心のとこが見られへんかった……と思いつつ窓の外を見たらどんより雨模様。アナウンスが「現在の気温は5度」。えーっ、めっちゃ寒いやん! とロサンゼルスに引き返したくなりました。
ロサンゼルスにいる1週間、半日だけ霧&曇りがあったけど(毎日晴れてるから映画の撮影が盛んになったのやね)基本、ええ天気。急に肌寒くなったり暑くなったり、昼と夜でも気温差あったりはするけど、基本的には湿度が低くてすごしやすく、木陰で読書や仕事なんてことも1年中できそうな感じ。天気良くて、めっちゃ寒いもめっちゃ暑いもないだけで、人生のつらいことの何割かはなくなるんちゃうかと真剣に思う。ただし、そしたら小説書けないのでは、という意見もけっこう聞きました…。
3月☆日
とはいえ、ロサンゼルスに戻れるわけもなく、日本に着いたら着いたでそれなりに居心地の良さはあるわけで、とりあえずコンビニでおにぎり買いました。わたし、外国におる間に日本の味が恋しいとか梅干しやら味噌汁やら持って行くとか全然ないのやけど、激甘&巨大・特盛り&油多いのが続くとつらくて、普通サイズの味の薄いもんが食べたい! と切実に願うのですが、これもまあ「日本食恋しい」の一環かもね。 あとお茶やね。アメリカのペットボトルのお茶は甘いし(Greentea&honeyみたいなんで200kcalぐらいあったりする)、今回は初日にスーパーでティーバッグを買うたのやけど、味が完全に「マテ茶」。緑茶とちゃうやん! と飲むたびにつっこみながら1週間過ごしました。
3月☆日 つづき
そして仕事です。東京で家で仕事の毎日です。なんやいつのまにか桜、桜、言うてるし! 今年もゆっくり お花見に行けなそうやなあ。
桜はほとんどソメイヨシノやから一瞬で終わるので、いろんな種類の桜を植えて長く楽しめるようにしてほしいです。
プロフィール
柴崎友香(しばさき・ともか)
1973年大阪生まれ。映画化された『きょうのできごと』で作家デビュー。2007年に『その街の今は』で第57回芸術選推奨科学大臣新人賞、第23回織田作之助賞大賞、第24回咲くやこの花賞受賞。2010年に『寝ても覚めても』で第32回野間文芸新人賞受賞。2014年に『春の庭』で第151回芥川龍之介賞受賞。著書に『青空感傷ツアー』『フルタイムライフ』『また会う日まで』『星のしるし』『ドリーマーズ』『よそ見津々』『ビリジアン』『虹色と幸運』『わたしがいなかった街で』等多数。
公式サイト:http://shiba-to.com/
権田直博(ごんだ・なおひろ)
1981年大阪生まれ。画家。さまざまな手法を使って作品を作り、すべてを絵ととらえている。風呂からパブリックスペースまで幅広く活動中。
キレイ:https://naohirogonda.tumblr.com/
風呂ンティア:https://frontier-spiritus.blogspot.jp/
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