• 時をかける少女
  • サマーウォーズ
  • おおかみこどもの雨と雪
  • バケモノの子
  • 未来のミライ
  • 竜とそばかすの姫

ファンタジーありながら、
心揺さぶる現実描く。
細田守作品リアリズム、
そのカギ舞台設定アリ。

『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』など、
数々の名作を手がけてきたアニメーション映画監督・細田守。
現在、最新作『竜とそばかすの姫』も大ヒット公開中だが、
SF要素たっぷりの物語や躍動感あふれるキャラクター描写など、
アニメーションならではの手法で多くの観客を惹きつけてきた。
一方、リアルな「舞台設定」「背景美術」も細田作品の真骨頂。
その魅力について映画評論家のミルクマン斉藤さんが解説!

現実描写に貫かれるリアリズム

人間の生活の基本は衣食住、ということなのだろうか──。劇場用監督デビュー作『デジモンアドベンチャー』(1999年)以来、細田守作品は現実的な軛(くびき)から解放されるファンタスティックな世界観をしっかり根底から支えるように、その現実描写そのものは徹底したリアリズムで貫かれているのだ。

「衣」でいえば、自らのアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を立ち上げてからは、キャラクターの衣装はトップスタイリストである伊賀大介に委ねるというこだわりよう。「食」となると、キチンと食べて勝負に挑むという姿勢はどの作品にも伺えるし、『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では現代の農業事情にまで言及される。しかし、とりわけ目を引くのは「住」・・・物語の舞台となる建築だ。

建物

Building

    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ
    • サマーウォーズ

    16代当主の栄おばあちゃんが亡くなり、一族が縁側でうなだれる水平移動で描かれたシーン。突き抜けるように美しい青空と雲が、陣内家の悲しみをより浮き彫りにする。『サマーウォーズ』より © 2009 SW F.P.

  • 未来のミライ

    斜面に建てられた、中庭が特徴的な2LDKのお父さん設計の自宅。訪れた祖母が「おかしげな家を建てたもんだね」とつぶやくが、実際に住むことができる。『未来のミライ』より © 2018 CHIZU

たとえば『サマーウォーズ』(2009年)。仮想世界「OZ」の騒乱に現実世界から立ち向かうこととなるのは、信州・上田の旧家である陣内家。室町時代から引き継がれているらしいその豪壮な屋敷は、いったい幾つの間があるのか一向に判別できない。物語が進み、なんとなく敷地全体が掴めてきた頃、本作の真の主役ともいうべき栄おばあちゃんの死去が訪れる。

その事実に呆然とし、夏空の縁側にたたずむ親族一党の姿を、延々と続く横移動で捉えるショットに、陣内家の家屋の尋常ではないスケール感を改めて思い知らされるのだ。和洋折衷の応接間など、いかにも旧家にありそうな間取りが人類存続を賭ける作戦基地となっていくのも面白い。

ロケ地

Location

  • 時をかける少女

    主人公・紺野真琴の叔母で、原作のヒロイン・芳山和子が働く美術館。「東京国立博物館」がモデルとなっており、同館では細田監督とのコラボ企画としてバーチャル特別展も実施。『時をかける少女』より © 2006 TK/FP

  • おおかみこどもの雨と雪

    父子家庭で父を亡くし天涯孤独だった主人公・花が奨学金で通っていた国立大学は、一橋大学がモデル。同大学の兼松講堂は、日本建築史を創始した伊東忠太が設計。『おおかみこどもの雨と雪』より © 2012 W.C.F.P

実在する書物ばかり、
注目すべき本棚

さらに『未来のミライ』(2018年)では、まだ幼い主人公・くんちゃんと妹・未来ちゃんが暮らす家そのものが主役となる。高低差のある斜面の狭い敷地を最大限に活かすべく設計された、いともユニークな住居だ。これをわざわざ実際の建築家である谷尻 誠氏にプロダクション・デザインを依頼しているというのが、こだわりの最たるもの。

兄妹のお父さん(声は星野源が担当)も自宅を仕事場にする建築家という設定であり、その書棚に並ぶ本も実際に存在するものばかりだ(あの、潰えた名デザイン・新国立競技場を設計した故ザハ・ハディドの本もある。細田映画の本棚には常に注目すべし)。

Book

  • 未来のミライ

    ザハ・ハディドの30年以上にわたる先進的な建築デザインをまとめた『ザハ・ハディド』、シュテファン・コッペルカム著の『人工楽園』など、実在の書物が並ぶ。『未来のミライ』より © 2018 CHIZU

  • バケモノの子

    同作でもっとも重要なキーとなる1冊、主人公・九太が図書館で手にしていた世界文学全集のハーマン・メルヴィル『白鯨』(細田作品でくじらは重要場面で頻出する)。『バケモノの子』より © 2015 B.B.F.P

さて、細田監督の最新作『竜とそばかすの姫』は、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)、『サマーウォーズ』に連なる、仮想世界と現実が密接に呼応し合うスペクタクルなエンタテインメントの系列に属するのは間違いない。

仮想世界

Virtual Space

  • 未来のミライ

    くんちゃんの時空の旅先「未来の東京駅」。多言語化された案内板、国際空港のような圧倒的な建築が印象的。ちなみに遺失物受付センターのロボットは、講談師・神田松之丞(現・神田伯山)が演じている。『未来のミライ』より © 2018 CHIZU

  • サマーウォーズ

    行政機関や自治体の窓口はもちろん、eスポーツやオフィスの設立、AI自動翻訳で世界中の人々と会話できる仮想世界<OZ>。現実を10年以上も先取りしたようなヴァーチャル空間。『サマーウォーズ』より © 2009 SW F.P.

さらに言えば、『~ぼくらのウォーゲーム!』のデジタル空間と『時をかける少女』(2006年)のタイムリープ描写は明らかにひとつながりのものであって、それは細田組の作画監督・山下高明、CGディレクター・堀部亮の進化/深化の軌跡でもある。そうした細部の設計を目を凝らして、最新作『竜とそばかすの姫』をしかと見届けようではないか!

細田守

細田守

1967年生まれ。『時をかける少女』(2006年)、『サマーウォーズ』(2009年)で国内外の注目を集め、2011年にアニメーション映画制作会社「スタジオ地図」を設立。2018年の『未来のミライ』は、第91回米国アカデミー賞の長編アニメーション映画賞などにノミネートされ、第46回アニー賞では最優秀インディペンデント・アニメーション映画賞を受賞した。

細田守最新作
『竜とそばかすの姫』

竜とそばかすの姫

高知の田舎町に住む女子高生・内藤鈴(すず)は、幼いころ母を事故で亡くしたことをきっかけに、大好きだった歌を歌うことができなくなっていた。ある日、親友に誘われて全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界<U(ユー)>に参加することに。<As(アズ)>と呼ばれる自分の分身を作ったすずは、<U>では自然に歌うことができ、「ベル」という歌姫として世界的な人気者になっていくが・・・。

大ヒット公開中!

原作・脚本・監督: 細田守
出演: 中村佳穂、成田 凌、染谷将太、玉城ティナ、
幾田りら / 役所広司 / 佐藤健

企画・制作: スタジオ地図
配給: 東宝

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