「小宇宙のように制限されない表現」上野樹里の着色されない演技

2016.10.12 11:00
(写真1枚)

「みんなに愛されるのか、不安だった」(上野樹里)

──樹里さん演じる彩は34歳、彼氏の伊藤さんは54歳、お父さんは74歳・・・と、20歳ずつ離れた3人という設定ですが。

伊藤さんと彩は年は離れているけど、2人ともバイト暮らしなので、その点は一緒なんですよね。だから彩は彩で手抜きせず働いて、伊藤さんには迷惑かけないという自立心もしっかり持ってますし。でも伊藤さんは、黙って家庭菜園してくれたり、朝ごはんをラップして作り置きしてくれてたりする。なのにお父さんのことで悩んで愚痴っぽくなったりする自分を、彩なりに申し訳なくて溜めこんでるんです。

──それがちょっと表に出ちゃうのが、お父さんが家出していなくなった直後のシーンですね。

彩が「伊藤さんって、なんでこういうときだけ良い子になるのかなあ」って感情的な言葉でぶつかる瞬間ですよね。でも、伊藤さんは大人だし、一歩引いた感じで見てるので、彩が感情で言ったことを感情で返してこない。そのことに本気でムカついて、足でパーンって窓を閉めちゃったんですよね。

© 中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会
© 中澤日菜子・講談社/2016映画「お父さんと伊藤さん」製作委員会

──「閉めちゃった」って、あれはアドリブなんですか。

アドリブです。実際に窓をパーンと閉めて、その後いじけてワーッとなるところまでアドリブで。何をやっても監督は「んふふふふ、OK」みたいな感じで。こんなダメなヒロインが本当にみんなに愛されるのか、ちょっと不安だったんですけど、ま、ここは冒険してみようと。

──いや、全然ダメじゃないですよ。むしろ同年代の女性は、その苛立ちもすごく共感できるんじゃないかと。でも、伊藤さんのキャラクターは絶妙ですね。ズルいくらいにリリーさんがぴったり。原作読んだ時点で、ちょっと他に選択肢ないな、って。

私も原作読んでも脚本読んでも、伊藤さんはリリーさんだと思っていたんで。あの立ち回りできる人はなかなかね。最初にキャスティングが決まりましたもの。やっぱりリリーさんじゃないと、あのユーモアとか出せないと思うんですよ。

「こんなダメなヒロインがみんなに愛されるのか、ちょっと不安だった」と語る上野樹里
「こんなダメなヒロインがみんなに愛されるのか、ちょっと不安だった」と語る上野樹里

──男2人のキャラクターのアクが強い分、彩はかなりニュートラルに見えましたが。

そうですね。すべての球を柔軟に受ける演技だったんで、結構楽しかったです。ちょっとシュールで(笑)。みんな見たくない、考えたくない家族の描写を、タナダさんってこんなに愛おしくチャーミングに描けるんだなぁと。それは女性ならではのしなやかさと、客観性のある描き方っていうんですかね。このタイミングで一緒に作品を作れたことは本当に良かったと思います。

──女性監督と組まれたのは、『幸福のスイッチ』の安田真奈さん以来ですね。

そうです。男性監督が描くヒロインって、男性側の理想像だったりするので、私もどこか背伸びして演じてるんですよね。でも、男性を意識しないでいるときの素の女性の姿には、ひとりの生身の人間としてどう思っているのかが出ると思うんです。そういうところが同性の監督だと、何も言わずとも理解してくれたり、こういうときはこうだ、っていうのを共有しながらスムーズに進んでいくことができますよね。

映画『お父さんと伊藤さん』

2016年10月8日(土)公開
監督:タナダユキ
出演:上野樹里、リリーフランキー、藤竜也、ほか
配給:ファントム・フィルム

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