寺山修司「レミング」東京公演レポ
昭和のアングラカルチャーを牽引した作家・寺山修司の戯曲を、大阪の劇団・維新派の松本雄吉が脚色&演出、名古屋の劇団・少年王者舘の天野天街も共同脚本を務めた舞台『レミング〜世界の涯まで連れてって〜』。初演からスケールアップした再演版を、東京で観劇した。
内容に関しては初演の際に紹介した特集(https://www.lmaga.jp/news/2013/05/9898/)を参照していただきたいが、この再演で最も注目されるのは、主要キャストを溝端淳平、柄本時生、霧矢大夢、麿赤兒の4人に一新したこと。結果としては、難解なパズルの正解が出たかのごとく、全員が見事なハマりぶりだった。
現実と虚構の狭間で迷い子となるコック見習いのタロとジロは、寺山逝去後に生まれた溝端&柄本という若い俳優が演じることもあって、寺山の生んだ迷宮世界に困惑する若者たち・・・という構造がよりリアルに。映画女優の影山影子は、霧矢の「さすが元宝塚トップ」とうなる圧倒的歌唱力と存在感で、虚構の世界で生きる人種の光と影をいっそう鮮やかにした。そしてタロの母親は、麿の強靱な声と表情によって、この迷宮のラスボスのような怪物となって舞台を盛り上げる。
全体的な感触としては、東京の都市生活者たちの孤独を、壁を消すことで露わにしたという印象の初演に対して、今回は“誰かの夢の中にいる”という感触の方が強い。その大きな要因となっているのは、再演で新たに加わった「少女」役を演じる、京都出身のシンガーソングライター・青葉市子の存在だろう。彼女の澄んだ歌声と、物語から一歩離れた所で漂っている姿が、この世界が現実の街か? 非現実の空間なのか? という謎を強める効果になっていたと思う。
天野天街が公演パンフの中で、レミングを「REMing」(REM=睡眠中に夢を見やすい時間)と記した通り、まさに時間も空間も思考もすべてがデタラメな、他人の奇妙な夢の中に放り出されたような世界に生まれ変わった『レミング』。3都市での公演を経て、より完成されるであろう上質のナイトメアは、1月に公演最終地・大阪に上陸する。
取材・文/吉永美和子
寺山修司生誕80年 音楽劇『レミング〜世界の涯まで連れてって〜』
日時:2016年1月16日(土)・17日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
料金:8,500円(全席指定)
電話:0570-200-888(キョードーインフォメーション)
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